私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
* * *
お城の門はさすがに立派で、門の柱は石柱だった。門の前にいた番兵は、日本風と中国風を合わせたような鎧を着て、槍を持って立っている。
門を潜るときはすごく緊張したけど、アニキ達と一緒だからか、通る時に番兵が敬礼をしていた以外は、ほぼ素通りだった。
芝の生えた庭を少し歩くと、本殿へと続く階段があった。
その脇には、大きなお屋敷がある。もちろん石壁に瓦屋根の屋敷だった。
「そこは三関の御家よ」
何気なく見ていた私に、鉄次さんがそう教えてくれた。
「三関……っていうと、将軍の次の位の人ですね」
「そうよ。よく知ってるわね」
「倭和にいた時に教えてもらったので」
「そう。ほら、あそこにお屋敷が見えるでしょ」
鉄次さんが指を指した方向を見ると、階段を上がり切った先に、大きな門構えのある、お屋敷が見えた。
三関のお屋敷よりも大きい。
「あそこが花野井将軍の御宅よ」
「すごい! っていうか、軍人さんって、お城に住んでるものなんですね」
私が感動していると、後方から鼻を鳴らした音が聞こえた。
小馬鹿にしたような音。アニキは先を歩いてるし、鉄次さんは私の横だ。ってことは、やっぱり……。
(気にしない、気にしない。無視しよう!)
「岐附ではそうよ。爛や千葉でもそうだけど、他の国ではちょっと違うみたいね。普通は、三関はお城の近くに住むものなんだけど、岐附は今は将軍が少ないからね。三関も城に置いてるのよ」
「へえ。もしかして、先の大戦で将軍の方が亡くなられたと月鵬さんにお聞きしましたけど、それでですか?」
私が質問した瞬間、場にぴりっとした緊張が走ったのが分かった。
鉄次さんが、ちらりとアニキを盗み見て、振り返らないように視線を後ろに送った。
(あれ……私、何かまずいこと訊いたのかな?)
窺うように鉄次さんを見ると、鉄次さんは苦笑を漏らした。
そういえば、月鵬さんもこの話の時にすごく哀しげな目をしてた。月鵬さんの知り合いかもと思ってそれ以上聞けなかったんだよね。みんなも知ってる人だったのかも知れない。
(悪いこと訊いちゃったかなぁ?)
「……そうね。確かに亡くなった方はいたけど。でも、ちょっと違うわ」
「え?」
「将軍はね、大戦の前に減らされたのよ。現在の王様によってね。まあ、それが結果的に良かったのかどうかと言ったら――」
「おい。カマ。喋りすぎだぞ」
亮さんはさっきまでの突っ込み的な感じじゃなくて、真剣な口調で鉄次さんを止めた。振り返ると、亮さんは眼鏡を押し込み、鋭い眼差しで鉄次さんを睨んでいる。
「は~い。悪かったわよ。黙ります!」
ふざけた調子で言う鉄次さんだけど、どこか、しくじったというような焦心が窺えた。
(やっぱり、身内の死ということで、色々な感情があるんだろうな)
私は気まずさから、深く聞くことはしなかった。