私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
* * *
――つ、疲れた。
息を切らしながら階段を上がりきると、大きな門が私達を出迎えた。門は開かれており、その先に、アニキの屋敷へと続く緩い下り坂が伸びている。
門を潜って右手側に、本殿へと続く上り坂が真っ直ぐに伸びていた。
石柱には、薄緑色の石柱にはドラゴンの姿が彫られていた。翼を持たない地竜のようで、目玉が十字になっている。ヤモリみたいな目だ。
前脚が長く、後ろ足が短い。首はひょろっとしているけど、長いわけではない。私がじっと石柱を見ていると、「珍しい?」と、鉄次さんが声をかけてきた。
「はい。見たことないドラゴンですね。まあ、ドラゴン自体あんまり見たことないですけど」
私が苦笑すると、鉄次さんが指を前に突き出して弾むように語った。
「これはね、国竜なのよ」
「国竜?」
「そ! 岐附のシンボルとされるドラゴンよ。守宮竜(スグウ)と言って、前脚に体重をかけて走るの。物凄く速いのよ。多分世界一ね!」
「へえ! 世界一! すごいですね!」
「まあ、あたしドラゴンにそんなに詳しくないから、多分だけどね」
鉄次さんは困惑したように笑って(多分、私が予想以上に感動したからだろうけど)話を続けた。
「でも、残念なことに滅多にお目にはかかれないわね」
「そうなんですか、それは残念です」
「そうよねぇ。運良く見つけても、警戒心が強くてあっという間に走って逃げちゃうそうよ。でも、そんなに体は大きくないんですって」
「へえ、どれくらいですか?」
「そうねぇ。案外小さいとしか聞いてないけど、多分一メートルないくらいじゃないかしら」
考え込むように顎に手を当てて、鉄次さんは顔を上げた。
私は「そうなんだ」と頷く。
今まで大きめなドラゴンにしかあったことがないから、一メートルないと聞くと、小さいような気がしちゃう。
鉄次さんは歩きながら、
「大概の国ではその国を代表するドラゴンがいてね。そのドラゴンの姿を象ったエンブレムが将軍に渡されるの」
「じゃあ、アニキは持ってるってことですね」
「そうよ! ちなみに、この坂道を上ったところには、王家のエンブレムが彫られているのよ」
楽しみにしてね! と、鉄次さんはウィンクした。
(きっと、王家なんだから神々しい龍か、かっこいいドラゴンなんだろうなぁ!)
私はわくわくしながら歩き出した。