私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
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本殿に入ると、すぐに広い廊下が広がっていた。
外観は日本のお城に似ているので、履物を脱いだりするのかと思ったけど、そこは、石壁に瓦屋根の屋敷と同じく、脱がないで良かった。
廊下が大理石のような、つるつるとした石で出来ているのに、内壁は木材で出来ていて、木の良い匂いが漂ってくる。
日本のお屋敷と、洋館を合わせたような感じで、なんだか馴染みがなくて、変な感じがする。
そこに、待ってましたと言わんばかりに、数人の男性が早足でやってきた。全員平安時代の貴族みたいな和服の上に、やっぱり派手目な着物を羽織っていた。
そして、全員烏帽子を被っている。と言っても、とんがっている烏帽子じゃなくて、コンパクトな感じ。
先が少し折れ曲がってるから、風折烏帽子というやつかも知れない。
その内の一人がとことこと近寄ってきて、アニキに向って会釈した。顎鬚を長細く生やした男で、全体的にほっそりとしていた。男は中年か、初老か、それくらいの年齢に見える。
「お待ちしておりました。花野井殿」
「伝書はちゃんと届いたみたいだな」
「もちろんでございます。それで、魔王はどちらに?」
「まあ、それは後でな」
「さようでございますか。やはり、謁見してからでございますな。いやはや、気が急いてしまいましてなぁ。魔王などとは、お伽話でしたが故」
お伽話……やっぱ、そんなレベルなんだ。
私の中に、そのお伽話が存在してるって、なんか複雑。
「さあさ、では謁見の間へ急ぎましょう」
男はそう言って、アニキ達を廊下の奥へと促した。
そこで初めて私に気がついたのか、私と目が合うとあからさまに、コイツ誰だ? と、訝る目をしていた。
場違いなのは、自分でもよく分かってる。
私は少し居た堪れない気持ちになりながら、アニキ達の後ろからついて行った。