私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
「翼さん!」
「ゆりちゃん! いやあ、無事だったんすね!」
「翼さんこそ! 良かったです!」
わあっと、感激しながら二人で手を取り合うと、庭から何かが嘶く声が聞こえた。
翼さんとアニキを掻き分けて覗き見ると、庭の一本すっと伸びた木にシンディと白矢が手綱を結ばれて二匹仲良く並んでいた。
……いや、仲良くはないのかな。
白矢が懐っこく寄って行くけど、シンディは冷たい目で見て距離をとるという事を繰り返していた。
終いには、シンディに威嚇されて白矢はすごすごと距離をとって蹲ってしまった。
(ラングルって、大人しい竜なんだよね?)
アニキがシンディは気高いとか、気位が高いとか言ってたけどここまで気が強いとは……。なんだか、笑えてしまう。
さすがシンディ、クロちゃんの騎乗翼竜なだけあるわ。
「シンディは、この町の外れの森にいたんすよ。俺もその森で気づいて、偶然会ったんす」
「そうなんですか」
「俺どころか、隊長以外には懐かなかったんすけど、ちょっと心細いんじゃないっすかね、俺にも少しなら撫でさせてくれるようになったんすよ」
「へえ」
(……あれ? 翼さんの言い方だと、何日も一緒にいたみたいじゃない?)
私は一抹の不安を覚えた。
「えっと……倭和にいた時から、どれくらい経ったんでしょう?」
「俺は目を覚ましてから三日っすね」
「俺もだ」
「え!?」
翼さんとアニキはあっさりと答えた。
それってつまり、私は丸三日寝てたってこと? それとも、時間にずれがあるってこと?
「お姉さんは三日寝てたのよ。言わなかったかしら?」
(言ってないよぉ!? 先に言ってよ!)
心の中で突っ込んじゃったけど、私はほっと一息ついた。
ただでさえ意味が分かってないのに、時間にずれなんてあったらなんだか怖いじゃん。
「起こそう起こそうと思ってたんだけど、なんだか幸せそうに寝てるから起こせなくって」
「……それは、なんかすみません」
寝るのが好きだ好きだとは思ってたけど、そこまで寝なくっても良いんじゃないかな、自分よ。
「でも、三日もこの町にいたんですね。アニキも翼さんも」
そのおかげで会えたから良いんだけど、なんで三日もいたんだろう? 私だったらとっとと家に帰るけどな。
私が何気なく見ていると、アニキと翼さんは苦笑していた。私は訝しがりながら首を傾げて、話題を変えた。
「アニキはどこで目が覚めたんですか?」
「俺は、街の路地裏だったな。白矢も一緒だったんだ」
「へえ」
「目覚めたその日のうちに、街の中で花野井さんと会ったんすよね」
「ああ」
「へえ……」
そうだったんだ。
それにしても……なんか、二人とも様子がおかしいような?
この三日間の話題を出すと、そわそわしてるんだけど。
何かあったの?
「この男どもはな、お嬢さん。花街で豪快に遊んどったぞ」
「ああ! こら、爺さん!」
「裏切り者ぉ! 助けてあげたっしょお!?」
花街……って、なに?
「えっと……? 繁華街ってことですか?」
私が首を傾げると、みんな一斉に目を丸くして私を見た。
(なに?……なんか、変なこと言った?)
女の子まで、びっくりした顔をしていた。そして、彼女は呆れたようすで言った。