私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
椅子に座ったまま振り返ると、そこには、皇王子がいた。
私は慌てて立ち上がると、跪こうとしゃがみ込もうとしたけど、
「ああ。良い! そのままでいてくれ」
皇王子に止められて、私は体を起こした。王子と目が合うと、彼はきりっとした目を細めて微笑んだ。
「椅子に座ってくれ」
「はい」
椅子に座りなおす。皇王子は私の正面に座った。
私を見据える皇王子は、やっぱりカリスマ性のようなものが感じられて、ちょっと緊張しちゃう。
「呼びつけてすまなかったね。王子というものは、むやみやたらに本殿を出てはいけないんだよ」
少し残念そうに言うと、「兄様(あにさま)は別だけどね」と付け足して、悪戯っぽく笑んだ。
そんな笑顔を見ると、彼は年相応の少年のように見える。
「えっと、今日は?」
「うん。兄様が迷惑をかけてしまったらしいね。その謝罪を文にしたためようとしたら、兄様が自分が呼びに言ってくるからと言ってね」
「謝罪なんて、とんでもないです」
「いや、貴女は花野井の客人という扱いになっているからね。部下の客人に粗相があったのなら、きちんと対処しておかなくっちゃ」
はあ……しっかりしてるんだなぁ。さすが、次期王様。
「そういうことで、兄様が失礼な事をした。すまない」
「いえいえ、そんな!」
「少し、お喋りをしても良いかな」
「あ、はい。ぜひ」
「貴女のことは、花野井から聞いているよ」
「え?」
なんて言ったんだろ?
「貴女は異世界からきたそうだね」
「はい、そうですね。そうなりますね」
「なんでも、花野井達が呼び出して、魔王を入れてしまったとか」
「みたいですね」
私が苦笑すると、皇王子は、「重ね重ね、すまない」と、軽く頭を下げた。
「本当は、王族は他人に頭を下げてはいけないんだ。気持ち的には、もっと深く頭を下げたいのだけど、これで勘弁してくれるか?」
申し訳なさそうに眉根を寄せる皇王子に、なんだか逆に私が、申し訳ないような気になる。
「いえいえ、結構です! 滅相もないです! そもそも皇王子に責任はないわけですし!」
どっちかっていうと、儀式を行ったあの五人に罪はあるわけで。そのくせ、責任をとって私を帰すということもしないんだからね! むしろ帰す気ないからね!
「責任がないとは、言えないよ」
「え?」
皇王子は悲しげに笑った後、真剣な瞳に変わった。
「父が、私を王座に就かせるために、魔王の力を手にしようとしたのは知ってるかい?」
「あ、はい。聞きました」
「でも実は、そのためだけじゃないんだよ」
「え?」