私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
「花街っていうのは、色町のことよ」
「色町って?」
「だからぁ、女遊びをする街のことよ。芸者や踊り子を呼んだり、春を売る女がいたりする街のことよ。まあ、そっちの方がメインね」
「……春を売る?」
(……それってつまり、売春? 遊女ってこと!?)
驚きながら振向くと、アニキも翼さんも気まずそうに、へらっと苦笑を浮かべていた。
(最っ低!)
私が軽蔑の色を浮かべながら睨むと、二人は顔を見合わせて、さらに苦笑した。
「お姉さん、なんにも知らないのね。あたし心配だわ。お姉さんみたいにほやっとしてると、人攫いに攫われて、それこそ女郎屋に売り飛ばされるわよ?」
「え!?」
年下の女の子に本気で心配されてしまった……。それもショックだったけど、
「人攫いなんて物騒なのが、この世界にいるの?」
「いるわよ」
当然というように女の子は頷いた。
「この町では城主様が治安維持に勤めてくれているから、滅多に人攫いなんて出ないけど、他の町では犯罪が横行してるのよ。気をつけないとダメよ、お姉さん」
「そ、そうなの?」
「そうよ。先の戦いで爛は荒廃したの。未だに治安は戻ってないんだもの。美章よりも復興されてないんだから」
「そうなんだ」
美章と言えば、クロちゃんは無事なんだろうか? 自分を天才と豪語してやまないクロちゃんのことだから、大丈夫だとは思うけど……。
翼さんを窺い見ると、一瞬だけ心配そうな顔をしていたように見えた。
「岐附もまだ物騒だって聞いたわ。国主の問題で、中々町の復興や治安維持に手が回らないんだって」
「へえ……」
相槌を打ちながらアニキをチラリと見ると、アニキは平然とした様子でいた。
アニキは軍の人間だからあんまり政治には係わり合いがないのかも知れないな。
「千葉はやり手の文官がいて、復興作業は順調だって聞いたわね。まったく、戦争を仕掛けてきておいて、自分たちはのうのうと復興するなんて、やんなっちゃうわ!」
やっぱ、爛の人は千葉の人をよく思ってはいないんだな……。責めはしないけど、なんだか複雑な気分だ。
「それにしても、お爺ちゃん。この人達誰なの?」
(えっ!? 今更!?)
女の子は翼さんとアニキを指差した。普通に話してるから、私と同じように拾ってもらったのかと思ってたよ。
「ああ。ワシが絡まれていたところを助けてくれたんじゃよ」
「もしかして足もそのときに?」
「いや、これは元々じゃよ。お嬢さん」
「あ、そうなんですか。すみません」
「謝る事ないわよ。花街で女に見惚れてコケたのよ。それで捻挫したの。本当、いい年してなにやってんだか!」
「お爺さん、花街に行ってるんですか?」
結構なお年なのに、若いな……。
「花街で働いてるのよ。お爺ちゃん」
「あっ、そうなんだ!」
「芸者やってるの」
「え? 芸者って女の人がやるんじゃないの? 踊ったり、謳ったり三味線やったりする人だよね?」
「違うわ。芸者っていうのは演奏する人のことで、女もいれば男もいるわ。でも大抵若くない男ね」
「……そうなんだ」
やっぱ、色々と違いがあるんだなぁ……。
「それって、岐附や美章でも同じなんですか?」
ふとした疑問が湧いたので、アニキ達に尋ねた。
すると、二人は少し言いずらそうに、
「大抵同じだな」
「そっすね。でも、功歩、瞑、永はちょっと違うみたいっすよ」
「へえ……。知ってるってことは、二人とも自国でも行ったことあるんですね」
「……そりゃ、まあ、な」
「……っすね」
二人はお互いを見合って、へらっと笑いあった。
(……男って!)
呆れた思いでいると、アニキが急に声色を変えた。