私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
「岐附は、十一年前に、父である碧王が戦争を嫌って、将軍を減らしたんだ。それは、祖父である慈堕(ジダ)王が、今の功歩の戯王のように、戦好きだった事に起因しているのだが、そのせいで、大戦が起こったおり、将の数が足りず、国土を多く焼かれ、私の母もその時期に亡くなったらしい。父上は、軍事力を減らした事を、とても悔やんでおられて、力を持つことで、諸国への牽制としたいんだよ」
ということは、つまり……。
「もしかして、私――」
私が言いたいことを悟ったのか、皇王子は「ああ」と呟いた。
「すまない。貴女がこの国に来た時点で、貴女は元の世界には戻れない」
頭を金槌で殴られた気分だった。
もちろん、私を帰す方法が分からないということも含むのだろうけど、そんな理由からじゃないのは、明らかだ。
愕然とする私に、皇王子は告げた。
「私が正式に王に就任したら、諸外国に『貴女という兵器』を発表する」
兵器。
私が?
「父上が私に王を継がせたい理由もそこにあるんだ。もしも、安慈兄上が王座に就いたら、貴女を抑止力ではなく、本当に武力として扱いかねないという懸念があるんだよ。安慈兄上は、軍事や武芸に秀でた方で、戦争にも積極的な方だからね。私は、どちらの兄上も尊敬申し上げているけれど、父上の言う事を、父上亡き後も、実行する者を、父上は王にしたいのだと思う」
皇王子は、哀しげに笑った。
その言葉の意味はきっと、父の言う事を一番利くから、選ばれた。
そういう卑屈な意味合いなのだと思う。
「私はまだ、十二歳だからね。それを実行して行くのは、私ではなく右大臣だろうけど」
そう言って、自嘲気味に笑った。
私は、何も言えなくなって、俯いた。
皇王子には同情するけれど、可哀想だと思うけど、でも、私はそれどころじゃなくて。
兵器として扱われることは、やっぱりショックだった。心に岩が圧し掛かってるみたいに重苦しい。
泣きたくなる衝動を抑えるのに必死だった。
アニキも兵器として私をこの国に招いたのかも知れない。そんな考えが頭を巡って、離れなくて。哀しい……。