私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
「何故ですか?」
「言ったであろう。私はまだ幼い。私には関白がつく」
「……右大臣、ですか」
「ああ」
「そんなの、関係ないじゃない!」
私は思わず声を荒げた。
だって、そんなのおかしい。
「何歳であろうと、自分でちゃんと考えている事に変わりはないはずよ。誰の意見であろうと、大切にされるべきだわ。大体、大人は、子供のくせにとか、子供だからとかって言うけど、自分達だって、立派な子供だったのよ。その時にもきっと、何かを考えて生きていたはずだわ。それを大人に踏みにじられて、悔しい思いだってしたはずなのに。みんなそんなの忘れて、子供だから何にも考えてないって言い張るのよ! そんなの、うんざりじゃない?」
皇王子は、ぽかんとした顔で私を見つめていた。
「あなたはあなたの意見をもっと大事にするべきです!」
胸を張った途端、我に帰った。
(ヤバイ! 王子にタメ口の上に、変な演説までしちゃったよ!)
私は慌てて言い訳を探そうとしたけど、次の瞬間、
「あははははっ!」
皇王子はお腹を抱えて笑い出した。
「いや、すまない。花野井もな、そのような事を言っておったから」
含み笑いをしながら言うと、目を擦った。
涙が出るほど、笑わなくても……。
「アニ――花野井さんもそんな事を?」
「うん。お前の人生なんだから、親父がどうとか良いだろって。お前が王になりたいなら、俺はお前に味方する。お前が王になりたくないなら、俺はそれに味方するって」
「花野井さんらしいですね」
思わず私がくすりと笑うと、皇王子も嬉しそうに、にこりと笑んだ。
「それで、あなたの心は?」
「そうだな。私は、戦争のない世界にしたいのだ。そのためには、王になるのが一番だ。花野井に言われた時にも、私はそう答えたはずなのだが……」
皇王子の顔が曇る。
「だが、父上の考えも分かるのだ。武力とは、どちらに転ぶか分からぬものゆえ。それに、戦争をなくしたいという夢は、父上も同じなのだから」
皇王子は迷っているんだ。
自分の考えを持ちながらも、他人の考えも熟考する。
私は王子の意見を大事にすべきだと言ったけど、他人の意見も吟味することは決して悪い事じゃないように思えた。
そりゃ、私にとっては、悪い事だけど。でも、私は真面目で誠実な彼の応援をしたくなっちゃったんだ。
「良い事だと思います。自分の意見を持つことはとても大事な事ですが、それによって、他人の意見を蔑ろにする事は、愚かな事なのかも知れません。色んな人の意見を聞いて、自分の意思でお決めになって下さい。王様や、大臣に言われたからじゃなく」
そう後押しして、付け足した。
「だってそうしてくれないと困ります。私の人生だって、かかってるんですから。それは国民の皆さんだって、多分同じですよ」
十二歳の少年に、酷な事を言っている気がしたけど、これは私の本音だった。
ころころと総理が変わり、ことあるごとに誰これの責任だと押し付け合う。
そんなニュースを見るたびに、私は政治家ってバカだなって思ってた。
多分、政治家だって、苦心して、頑張って色々決めたり、失敗したりしてるんだろう。
だけど、政治家が決める事は、国民の人生がかかることもあるんだ。
だからこそ、色んな意見を聞いて、自分自身で決めて、誰のせいにもしない。
そういう凛とした人にこそ、大事な事は決めて欲しい。
そういう王になって欲しい。私はそう偉そうに思ってしまった。
「分かった。ありがとう」
皇王子は光が宿ったような、強い瞳でそう返してくれた。