私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

 * * *


 あ~! バカだなぁ、私!
 なんで、帰してくれる方向に持っていかなかったのかなぁ!
 皇王子の寝室を出た私は、思わず廊下でうずくまった。

「あ~、アホなことした!」

 私は自分をなじってから、息を吐いて立ち上がる。
 情けない気分で廊下を歩き出した。

「あれ? ここって、あれ?」
 しばらく歩いて、私は気づいた。

「ここ、どこ?」
 きょろきょろ見回す。真っ直ぐに伸びた廊下に、感覚を開けて部屋の扉が設置されている。窓はない。

「どっかで道間違えたのかな?」
 本殿の中って、広い上に、どこを通っても同じに見える。

「どうしよう! 誰か通らないかな?」
 右往左往していると、

「ああ! 居られました、居られましたぞ!」
 疲れきった声音が背後から届いた。
 振り返ると、小走りでふらふらと近づいてくる男性がいる。右大臣だった。

「おお。これは、これは、魔王様。皇王子殿下の許へ、居られていると聞きましてな。壁王が是非とも貴女様に一目会っておきたいと申されまして」

 ぜえぜえと、息を乱しながら、右大臣は言った。
 もしかして、私が迷子になったから、だいぶ探させちゃったのかも。

「大丈夫ですか?」
「おう、ほう……大丈夫にございます」
 やっと一息ついて、右大臣はにこりと笑った。

「お会いしていただけますかな? 魔王様」
 ちょっと緊張しちゃうけど。

「はい」
 私は頷いた。
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