私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

「やはり、昨日会った花野井の所の娘か」
 安慈王子は快活に言うと、ギロリと私を睨んだ。
「お前ら、なにを企んでおるのだ?」
 威嚇するような声音に、私は一歩後退する。
(怖っ!)
「別になにも企んでないです」
「嘘をつけ!」

 雷のような大声に、思わず耳を塞ぐ。
(この人、本当に声でかい!)
 安慈王子は、長身から私を睨みつけて、

「皇に味方する者など――」

 歯軋りをして、急に押し黙る。
 王子にしては珍しく、声が低かった。

「もしかして、皇王子のこと嫌いなんですか?」
「……そうだ。嫌いだ!」

 一転して今度は声がでかい。
 私をなおも睨むけど、どことなく迷いが感じられた。

「兄弟なのに?」
「だからだ!」
 食い気味に言って、彼は歯をむき出しにした。

「私は兄弟がいないのでわからないんですけど、兄弟って良いもんじゃないんですか?」
「貴様に関係あるまい!」

 怒鳴りつけるように言って、安慈王子は踵を返した。
 去って行く背中を見つめながら、ぼんやりとニュース特集を思い出していた。
 骨肉の争い。
 どんなに仲の良い兄弟でも、遺産を巡って争いあう。
 壁王は亡くなってないけど、まさしく今、そういう状態なのかも。

 長兄が遺産放棄したのに、次男の自分には渡らず、弟に行ってしまったという状態なわけで、私が安慈王子の立場だったら、何でよ! ってムッとするかも。
 しかも、お父さん自ら、王はこの子って決めちゃったわけだから、嫉妬もするか。だけど、碧王の必死で、真剣な眼差しを見てしまった今、あの二人が争いあうのは何だか哀しい。とても哀しい。

 そう思ったときには、私は駆け出していた。
 安慈王子の背中を見つけ、その背にぽんと手を押し当てた。安慈王子は驚いて振向き、私だと認識すると、ムッとした表情に変わった。

(ちょっとまずったかな?)
「なんだ?」

――いいや、言っちゃえ!
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