私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
「入手出来ませんでした。招々に条件を出されまして。『写しは許可する。だが、原本を渡す事は出来ぬ。もしそれをするのなら、私はこの場で死を選ぶ』と脅されたそうで。そのまま原本を写せるなら、場所を吐かせる前に死なせるよりは、手掛かりになるし、そう代わる事ではないだろうと許可しましたが、やはり原本の方が良かったでしょうか?」
亮の問いに、花野井はかぶりを振った。
「いや。いざとなれば原本を入手する事も可能だろ?」
試すように言った花野井に、亮は当然といった感じで答えた。
「余裕です」
「ならいい」
花野井は含んで笑って、それを見た亮は報告を続けた。
「招々ですが、彼は娘と違って犯罪者なので、出来ればこちらに護送してあれこれ聞きたかったのですが、永国にその旨を伝える事になると暗部の密偵が露見するので、解放しましたが、構いませんよね?」
キッパリと言って、
「殺した方が良かったですか?」
と、付け加えた。
答えが分かっている問い方だったので、花野井はそっけなく「いや」とだけ答えた。
そこで、古文に目を通し終えた月鵬が、浮かない表情で巻物を閉じた。
「これ、魔王伝説のことね。話は違うし、途中が潰れちゃってるけど」
「そのようですね」
亮が頷くと、花野井が巻物を月鵬から受け取って中身を確かめた。
先程は開いてすぐに渡したため気づかなかったが、巻物は濡れてしまったためか、途中で文章が滲んでしまっていた。
「姪砂が写したんなら、原本もそのままだったんだろうな」
呟いた花野井に、亮は軽く頷く。
「ええ。そのようです」
姪砂の能力は、写本(コピー)能力とでも言うべきか、手のひらで触った文字を、そのまま別の紙や壁などに写す事が出来た。
それは紙で書かれたもののみならず、人の顔や動物の顔に触れ、紙や壁に手のひらをなぞると、その人物の顔が写真のように紙に焼き付けられる。
彼女はこの能力で、様々な国の機密書類をコピーしてくる。
相手は物がなくなっているわけではないので、気づく事はない。
暗部に大きく貢献している人物のうちの、一人であった。
「読めるところで良いから、読み上げてくれ」
花野井が月鵬に巻物を返し、月鵬は軽く返事をして口頭をはじめた。
「では、読みます」