私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
* * *
「――っていう事があったのよ」
気まずい顔の鉄次から視線を外し、花野井は呟いた。
「毛利か……仕掛けてくるかとは思ったが、案外早かったな。バレるの」
「そうですね」
月鵬が同意して、腕を組んだ。その顔色は曇っている。
「毛利ってのは、あの国の?」
「ああ。で、一緒に魔王を呼び出した男のひとりな」
亮の問いに、素っ気無く答えて、花野井はどうすっかなと、頭を掻いた。
「毛利様にバレたって事は、ゆりちゃんを狙われる危険が増したって事ですよ。黒田だって、諦めてなさそうだったのに」
困り果てたように言って、月鵬はイラついたようにため息を吐き出した。
「渡さねぇよ」
花野井のその一言は、ぽつりと呟かれた独り言のようなものだったが、月鵬も、鉄次も、亮も、花野井に一瞬見入ってしまった。
その姿が真剣そのものに見えたからだ。
「とりあえず、月鵬。毛利に密書だけ送っとけ」
「なんて?」
「当たり障りのないこと書いとけ。返事がきたら、その内容で決める。黒田には、魔王のエネルギーは魂の集合体だったと報告入れとけ」
「分かりまし――」
了承しかけて、ある事を思い出して、月鵬は声を上げた。
「そう言えば、見つかりました?」
「何がだ?」
「潜り込んでる情報屋だが、暗殺者だがですよ」
月鵬のどこかあっさりとした問い掛けに、花野井は気まずい表情を浮かべて答えた。
「目星はついてる」