私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
* * *
「キャアアア!」
私は悲鳴を上げて飛び起きた。
半狂乱になりながら、跳ぶようにベッドを這い回った。
「どうかしましたか!?」
誰かの叫び声に、はっと我を取り戻した。
声の方向を向くと、一人の若い女性がドアの前で血相を変えて立っていた。
彼女は銀の着物を羽織って、真っ直ぐに伸びた綺麗な髪をしていた。
「あ、あなたは?」
「私は、花野井様の部下です。廉璃(レンリ)ともうします。また襲撃などがないように見張っておけと任務を授かりました」
そう答えて女性は、心配そうに私を見る。
「どうなさったのですか?」
どうしたのか――そう訊ねられて、私は瞬きをした。
(どうしたのか?)
暫く呆然とし、
「……夢?」
と、小さく答えた。それは完全に自問自答だった。
「夢ですか」
女性はほっと安堵したように息を漏らす。
だけど、私は、何故だが胸を下ろす気になれない。不安、というよりは、恐怖が渦を巻いていた。最後の、あの叫び声……。〝あんな女の子供など〟 あれは、私が言ったのだろうか?
それとも、あの影が叫んだんだろうか?
あまりにも、生々しく、あまりにも憎々しげに、叫ばれたあの言葉……。悲鳴にも似ていた。
私は、あの声を聞いたことがある。そして、あのウロガンド。あれには見覚えがあった。あれは、あの部屋の物だ……。
私は、渦巻く恐怖の正体を知っていた。
何故、こんな夢を見たのか、直感で理解していた。
部屋の中の時計を見た。時刻は四時二十五分。
「どちらへ行かれるのですか!?」
制止する声を振り切り、私は駆け出していた。
速く行かなきゃ、間に合わなくなる!