私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
* * *
夜遅く、斥候隊の少年が足早に駆けて来た。
天幕に押し入るように進入し、膝をついた。
「何事か!?」
青蹴の側近が声をあげ、少年は顔を上げることなく声高に叫んだ。
「斥候隊は私を残し、全滅いたしました!」
「なに!?」
「しかし、有益な情報を掴んでまいりました!」
「……本当か?」
少年兵は、自信に満ちた表情で顔を上げた。その瞳、その髪、その肌は、まさしく我々の国の者だ。肌は少し日に焼けているようだが、兵士なんてのは、そんなもんだ。と、青蹴は少しもこの少年を疑わなかった。
そう、疑いようもないのだ。敵兵が功歩軍に紛れるなど、出来はしないのだから。
少年は、驚くべき事を語った。
「敵兵の将である、東條は今病に伏しております」
「なに? そうか……それで先程の体たらくか」
「はい。どうやら病状は思わしくない様子。それで、美章軍は撤退いたします」
「撤退だと?」
「はい。森を突き抜けて、その先にある小さな要塞に逃げ込む手はずのようです」
「篭城に出ると?」
「はい」
そうなれば、功歩軍が不利になる。
こちらは侵略軍故、食べ物もあまり持参がない。周囲の村を襲うとしても、長引けばそれだけでは持つまい。
それどころか篭城中の間に、美章軍の援軍がやってくる事の方が厄介だ。
おそらく、篭城が決まった時点でもう伝令は飛ばしているだろう。
そうなれば、速くて(空軍で)一日、二日でやってきてしまう。
「そうか……ならば、その前に叩かねばならんな」