私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~

 * * *

 詳しい話を聞いたのは、翌日だった。
 南さんが自宅にやってきて、説明して行ってくれた。
 敵軍の数は、三万五千。

 これは、美章を滅ぼそうと進軍してくるにしては、非常に少ない数だそうだ。
 だから、功歩軍は開戦の予告をしにきたのではないかと南さんは語った。
 だったらもう撤退しているかもという私の淡い期待は、どうやら叶わなかった。

 現在、猿に向う行路にて、猿の軍や近場の軍が功歩軍に応戦しているらしい。そして、黒田軍、赤井軍、速水軍が援軍に向っている。
 合流すれば、六万を超える大軍になる。総指揮をとるのは速水将軍だ。

 速水将軍は、速水瞥鈴と言って、小関時代にクロちゃんの指揮で戦った事があり、クロちゃんの策をぞんざいに扱うような人ではないとのことで、「こんだけ兵力の差があって、美章軍が負けるわけないっすよ!」と、南さんは満面の笑みで私に告げた。

 とりあえず、私は安堵して胸をなでおろした。
 赤井さん……いや、赤井セイがいるというのが、気に食わなかったし、クロちゃんの事が心配になったけど、とりあえず戦闘面では大丈夫そうだ。

 南さんも、クロちゃんは負けなしの英雄だって言ってたし。
 クロちゃんが、死んだりするはずない。
 大丈夫。
 私の心に、もう不安はなかった。
 だけど、私は解っていなかった。
 戦争のない時代に生まれ、戦争のせの字も知らないような私は、人が殺しあう場所で、いつ、何が起こるかなんて分からないんだってことを――。
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