私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~

 * * *

 緊急の知らせがきたのは、それから半日も経たないうちだった。
 シュシュルフランに行ったら、今日は店長の都合でお休みだと平煉さんに言われて、自宅に戻ってすぐのことだった。
 ノック音に慌てて玄関のドアを開けると、南さんが少しだけ緊張した面持ちで、

「黒田軍、赤井軍、速水軍、合流しました」

 そう私に告げると、頷く私を見据えた。

(……なんだろう?)

 不安が過ぎった時、南さんは驚くことを口にした。

「功歩軍に、三条がいます」

 ……三条?
 私の心に、風間さんと、雪村くんが浮かぶ。

(まさか……)

 いや、きっと人違いだ。
 風間さん達が功歩軍にいるわけがない。
 だって、まず容姿が違うし。
 戸惑っている私に構わずに、南さんは話を続けた。

「三条軍と言うのは、功歩軍の部隊の一つで、先の大戦で多くの美章兵や岐附兵を葬った部隊、いや、一族です」
「一族……」

「これが出陣したとなると……少し厄介です。それでも、こちらが有利である事には変わりはありませんが」
「三条って……三条一族には、風間とか、雪村とかって名前の人居ますか?」
「風間は、分かりません。でも、雪村は確か現頭領の名ですよ」
「……」

 そんな、まさか。
 ……クロちゃんと風間さん達の一族が戦うなんて……。
 もしかしたら、二人も功歩軍に居るのかも知れない……。

 ぞっとした。背筋が凍るように冷たい。
 明らかに功歩軍が不利な状況で、負けなしのクロちゃんが相手で、さらにクロちゃんは功歩に恨みもあるわけで……。
 全滅、なんてことになったら……。
 
 風間さんと、雪村くんが死んでしまったら……。
 不安が足元から這いずるようにして私を包んだ。
 だけど、私の不安はあらぬ方向へと飛んで行く。
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