私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~

 * * *

 その知らせが入ったのは、夜が明けてからだった。
 早朝。眠れずにいた私の耳に、ドン、ドンと、激しいノック音が届いた。
 慌ててベッドから飛び起きて、着の身着のまま玄関へと走った。

 玄関のドアと向かい合った時、何か、嫌な予感が過ぎったのを感じた。
 薄暗いドアの先に、死神が立っているような気になった。
 私は、ゆっくりと深呼吸をして、ドアを開けた。
 そこに立っていたのは、もちろん死神なんかじゃなく、南さんだった。
 彼は開口一番に叫んだ。

「……大変です!」
「何かあったんですか?」

 不安と緊張を抱えたまま、私は南さんに訊ねた。
 声は思ったよりもか細くなってしまった。
 彼は、ごくりと唾を飲み込んで、表情を強張らせた。

「黒田軍……黒田軍が全滅したと知らせが入りました」
「ぜ……め、つ……?」

(全滅?)

 目を見開いたまま、へなへなと座り込む。
 力が入らない。

「大丈夫ですか!?」

 南さんがしゃがみ込んだけど、私は答える気になれなかった。

(全滅? 嘘でしょ?)

 全てのものを拒絶したい。その時、ふと浮かんだ。
 クロちゃんだけは、無事かも知れない。

「クロ……クロちゃん、クロちゃんは!?」

 しがみつく私の手を、南さんは握った。
 そして、悲痛に顔を歪める。

「行方が分からないんです――」
「――え?」

 頭が真っ白になる。
 どういうこと……?

「実は、夜襲があると踏んで、ある場所に陣を配置していたらしいのですが、そこではない、手薄な場所に襲撃があったらしく、そこに配置されていたのが、黒田軍だったのです。夜襲があると踏んだ場所に、黒田軍からも人員を割り当てていたために、隊長を守っていた陣に人が少なく……隊長がいた本陣にも敵襲があったもようで、近くの森に逃げ込んだようなのですが……。敵襲があったさい、手傷を負ったという報告は上がりましたが、隊長の行方が分からないので、生死も安否も分かりません」

 ……嘘だ。

「嘘だ、そんなの!」

 だって、そんなのおかしい。
 ほんの三日前まで一緒にいたのに。
 行ってきますって笑って、私のおでこにキスしたのに。
 ぱたぱたと涙が落ちる。
 生死が分からない――そんな……。
 イヤだ。そんなのイヤだ。
 クロちゃんが死ぬかも知れないなんて、ヤだ!
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