私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~

「シンディは家の中で飼ってるの?」

 私の問いに、「そうだよ」と、クロちゃんの声が返ってきた。続けたのは翼さんだ。

「普通は庭に収容小屋を作ったりするんすけどね」
「金持ちの話な。普通の一般人は騎乗翼竜なんて持ってないからレンタルが普通だよ」
「へえ、レンタルなんてあるんだ」

 二人は頷いた。

「うん。足運屋(そくう)っていう、旅する時に借りて行ったり、買取ったり出来る店があって。まあ……店って言うよりは業者かな」
「そっすね。各国にあるんすよ。足運屋って」
「へえ」

 この世界にも、レンタカーがあるんだぁ! しかも全世界展開の! 社長さんはさぞかしやり手なんだろうなぁ……。

「だから、例えば凛章から借りて行って、別の町の足運屋に返すって事もできるんすよ。条件とかありますけどね」
「へえ……」

 レンタルサイクルみたい。
 便利そうだなぁ。

「地域によって貸し出したりしたりしてるドラゴンも違うけど、凛章では朱喰鳥竜(シュジキ)とラングルが一般的だね」
「そっすね。あと、足運屋って、大きな町では門の近くに下請け会社があることもありますよね」
「うん」
「下請け?」

「そ。凛章にドラゴン全然いないだろ?」
「うん。あんまり見てない」
「それは町の門の辺りに、預屋(せきや)っていうドラゴンを預けておけるとこがあって、旅人は殆どそこに預けておくんだよ。んで、町を出るさいに受け取ってくの」
「へえ……」

 だから街にいなかったんだ。たしかに、ドラゴンを連れて街を歩いたらその分狭くなって大変そうだもんね。

「ドラゴンの買い取りもやってるんすよ」
「手広いですね」
「でしょ」

 そんな会話をしていたら、玄関から厳かなノック音が響いた。

「月鵬さんかな?」

 玄関へと向う私の背後から翼さんの、「月鵬って、岐附の?」という、訝しがった声が聞こえた。クロちゃんが、「そ」という、短い、愛想のない相槌を打つ。

「は~い」

 私が玄関のドアを開けると、そこには、にこりと笑ったキレイな女の人が立っていた。やっぱり月鵬さんだ。

「こんばんは」

 軽くお辞儀をする月鵬さんの手には、手綱が握られている。騎乗翼竜だ。種類は灰色のラングル。

 これはひょっとして、足運屋ですかな?

「これって……」
「足運屋で購入したラングルです。足運屋はご存知ですか?」
「はい。今その話をしてたところなんですよ」
(なんて、タイムリーなんだろう!)

 なんだか興奮してしまう。

「上がっていかれますか?」
「いえ、これからすぐに発ちますので」
「そうなんですか」
 残念だな……もっと話したかったのに。

「黒田様はいらっしゃいますか?」
「――中に入って!」

 リビングから声が飛んだ。

「ラングルも一緒で大丈夫っすよ」

 翼さんが奥からやってきて、入室を促す。
 愛想良く笑う翼さんにつられたのか、月鵬さんもにこりと笑った。

(やっぱり翼さんは人懐っこくて、人を和ませるような人だなぁ。顔は恐いけど)
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