私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
第六章・始めました
結局、あの後クロちゃんに尋ねても、入国証を失くしたから、書状を書いて検問を通れるようにしただけだという返事しか返ってこなかった。
それは事実なんだろうけど、偽造発言などの疑問が残る。でも、これ以上訊いても、クロちゃんは本当のことは言わないだろう。
適当に嘘をつかれて終わらせられるか、煙に巻かれて問題を反らされるかのどっちかだ。クロちゃんには口では敵わない。
朝早く出勤したらしく、クロちゃんの姿は朝起きたらなかった。多分、私にまた質問されるのが嫌でさっさと出て行ったに違いない。
* * *
その日はお昼過ぎに家を出た。市でパンを買って食べ歩いて、図書館へ向った。でも、図書館に行ったものの、結局なんの手がかりもなかった。
ちょっとばかし、世界史に詳しくなっただけだ。
私は少しだけがっくりしながら市場を練り歩いた。
こんな時に限って、食材を楽しそうに買って歩く恋人同士が目に入る。
(これから二人で何か作るのかな?)
ふとそんなことが過ぎった。
(……私も、何か料理覚えた方が良いのかも)
幸せそうな二人を見ている内に、そんな気になる。
(でも、料理なんてしたことないよ。……お母さんの手伝いしとけば良かった)
また落ち込みそうになって、気持ちを切り替えた。
(まあ、しょうがない。出来ないものは出来ないんだから)
私は開き直って惣菜を手にした。