私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
「ま、そういうことで通るよ。良いね?」
「はいっ! どうぞ、お通り下さい!」
クロちゃんはにやりと笑いながら、歩き出した。
深々と頭を下げ続ける憲兵を見ながら私は彼を通り過ぎ、ひそひそとクロちゃんに尋ねた。
「今のなんなの?」
「あのエンブレムは三関に与えられるものなの。だから驚いたんでしょ」
「へえ、なるほどね」
「将軍には国竜である華炎竜(カーヒュアン・ドラゴン)のエンブレムが渡されるんだ。門の柱にあったでしょ? あれ」
「え、あれって鳥じゃないの?」
「鳥見たく見えるけど、生物学上はドラゴンなんだってさ」
「へえ~」
国鳥ならぬ国竜か。
「それにしても、この世界にもライオンなんているんだね」
「は? ライ……なに?」
クロちゃんは、あからさまに眉間にシワを寄せる。
(あれ? 魔王の通訳通じてない?)
「えっと……ほら、ポケットのエンブレムの動物! あれって、獅子(しし)でしょ?」
「ああ。違うよ。これは――」
クロちゃんはポケットを裏返した。
金色のエンブレムが現れる。
「キメラだよ」
「キメラ?」
「ほら、尻尾が蛇になってるだろ?」
私はエンブレムを覗き込む。たしかに、よくよく見れば尻尾が蛇だった。
「本当だ」
「キメラは美章に生息してる獣だよ。凶暴で冷酷な性格だけど、狩の勇猛さから、勇猛果敢な人間に例えられる事もあるよ。お前はまるでキメラのようだなぁって。褒め言葉の一種だね」
「へえ……だからエンブレムに?」
「そ。ライオンってのはなんなのか知らないけど、獅子(しし)ってのは伝説上の生き物だね。キメラの生みの親だって言う人もいるけど、大昔にいたとされる生物だよ」
獅子が伝説上の生物? でも逆に、私の世界ではドラゴンの方が伝説の生き物だし……。季節も逆だし、伝説上の生物と現実の生物が逆。この世界と私がいた世界は何かと逆なことが多いのかも。