私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
* * *
大通りから外れた、閑静な住宅街の一角。
石造りの二階建ての一軒家。
臙脂(えんじ)色の煙突があり、カラフルな町並みとは一変して灰色の壁、藍色の屋根。申し訳程度の小さな庭は、手入れが行き届かずに荒れている。
クロちゃん家は、案外こじんまりとしていて地味だった。
(三関とかいう地位だから、もっと豪華な家なのかと思ってた)
「意外?」
「え!?」
図星を当てられてギクリとする。思わずへらっと、苦笑してしまった。
「他のやつらにも言われるから分かるよ。もっと豪華なとこに住めよとか、地味だなとか」
クロちゃんは鬱陶しそうな顔をした。
散々言われてきましたって顔だ。
「招待もしてないのに、勝手に来て勝手に文句つけてくんだよね。特に、翼の野郎がさ!」
翼さんね。
なんだか、二人のやり取りが目に浮かぶよう……て、
「翼さん!」
「は!?」
クロちゃんは驚いて目を丸くした。
「翼さんもみんなも、そういえば行方不明なんだよね。無事かな?」
「……別にどうでもいいけど」
クロちゃんは呆れたように腕を組んだ。
「ええ、なんで!? 心配じゃないの?」
「あんなやつ心配する必要ないから。どうせそのうち、ニヤつきながら帰ってくるでしょ」
ふうん。信頼してるんだ。仲良いんだなぁ。
「ちょっと、今仲良いとか思ったでしょ?」
「え?」
「別に仲良いわけじゃないからね。あいつが勝手にくっついて来るだけだから」
念を押すように言って、クロちゃんは心底うんざりそうな顔をした。
(本当にそうなのかなぁ。ま、照れてるだけだと思うけど)
「言っとくけど、照れてないからね」
(――テレパシー!?)
「顔に出まくりなんだよ!」
クロちゃんの激しめな突っ込みに苦笑しながら、私は首を傾げた。
(そぉんなに出るかぁ?)
「出る!」
また強く言われて私はさらに苦笑した。
(テレパシー半端ないなぁ)
なんて、ふざけたことを思いながら、私は凛章に住むことになったのだった。