私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *

 ガラガラと、車輪が回る音がする。
 隙間から見える外の景色は、茶色い。荒野が広がっている。

 いつの間にか、山を越えていたようだった。
 後ろに三つの連なった山が見えた。

 私はぼんやりとそれを眺めていた。
 遠く、遠く、見えなくなるまで。

「ほれ」

 不意に目の前に手が伸びてきた。
 ぼんやりと手の先を見た。
 恰幅の良い、丸顔のおばさんがそこにいた。

 おばさんは手を開いた。
 その中には小さなお饅頭が入っていた。
 多分、くれようとしてるんだろうけど、私は受け取る気にはなれなかった。

「ほ~れ!」

 そんな私を見かねたのか、おばさんは無理に私の手を取ってお饅頭を私の手に置いた。

「こっちも!」

 そう言って、もう一つお饅頭を乗せる。

「あんたの相方にもあげようと思ったんだけどね、甘い物嫌いなんだって断られちゃってね」

 残念そうに言って、おばさんは笑った。
 優しい目で私を見て、席を離れた。

 そんな目で見ないでよ。
 なんだか、悪いことしてる気になるじゃない。

 ざわついた胸をなぞる。
 手の中のお饅頭をじっと見つめた。

 食欲は湧かない。
 食べたくもない。

 お饅頭……なんだろう。
 なにか、なにか大切なことを思い出しそうな感覚が胸に過ぎる。
 でも、私はそれを放棄した。

 座席に置いた手から、お饅頭がコロリとこぼれた。

――死に顔が、離れない……。

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