私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *


 宿屋の中は、やっぱりボロボロだった。
 床の板は接がれているところが幾つかあるし、受付カウンターらしき台には、埃が溜まっている。

「いらっしゃい」

 無愛想な雰囲気の初老の男性が奥から出てきた。
 私達を一瞥して、

「一緒で良いかい?」

(一緒? もしかして一緒の部屋ってこと?)
 戸惑いながら風間さんを窺い見ると、風間さんは困ったように笑った。

「いえ、別でお願いします」

 風間さんが言うと、おじさんは驚いた顔をした。

「あんたら夫婦じゃないのかい?」
「――ふ、夫婦!?」

 思わず驚いて声を上げてしまった。
 すると、おじさんは更に驚いたようすで、

「夫婦じゃなきゃ、なんで若い男女で旅してんだい?」
「え、えっと……」

 夫婦でも恋人でもない男女が旅してたらおかしいのかな? ……おかしいか。

「行商かなんかなのかい?」
「あ、そうなんで――」
「いえ、夫婦ですよ。ですが妻の機嫌が悪いので、別々の部屋に」
「ああ。なるほどね。じゃあ、これに記入して」

 私は風間さんの爆弾発現に、驚き、戸惑いつつ、風間さんをまじまじと見たけど、風間さんは気にした様子もなく、記入表に偽名の名前を書いていた。


「そんじゃあ、十四号室と十五号室に――」
 おじさんは言いかけて一瞬固まり、困ったように頭をポリポリと掻いた。

「すまねえな。十四号室埋まってたわ。十五号室しか空いてねえわ」
「ええ!? そんな!」

 私が思わず声を上げると、おじさんはにやっと笑った。

「まあ、でも夫婦なんだろ? 部屋行ってさっさと仲直りしてこいや」

――いや、夫婦違う。
 気まずく思いながら、風間さんを見ると、風間さんも気まずそうに笑った。

「私は外で寝ましょうか?」

 小声で私にそう言って、微苦笑した。
 私は何だか申し訳ない気持ちになって、覚悟を決めた。
 ……ある意味ラッキーだと思おう。

「あの――」

 私が声をかけた瞬間、それを遮るように店主が言った。

「安くしとくからよ」
「はい!」

 風間さんは即答で答えて、ちゃっかりと鍵を受け取った。
 ……もう本当に、外で寝てもらおうかな。

< 11 / 108 >

この作品をシェア

pagetop