私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
* * *
宿屋の中は、やっぱりボロボロだった。
床の板は接がれているところが幾つかあるし、受付カウンターらしき台には、埃が溜まっている。
「いらっしゃい」
無愛想な雰囲気の初老の男性が奥から出てきた。
私達を一瞥して、
「一緒で良いかい?」
(一緒? もしかして一緒の部屋ってこと?)
戸惑いながら風間さんを窺い見ると、風間さんは困ったように笑った。
「いえ、別でお願いします」
風間さんが言うと、おじさんは驚いた顔をした。
「あんたら夫婦じゃないのかい?」
「――ふ、夫婦!?」
思わず驚いて声を上げてしまった。
すると、おじさんは更に驚いたようすで、
「夫婦じゃなきゃ、なんで若い男女で旅してんだい?」
「え、えっと……」
夫婦でも恋人でもない男女が旅してたらおかしいのかな? ……おかしいか。
「行商かなんかなのかい?」
「あ、そうなんで――」
「いえ、夫婦ですよ。ですが妻の機嫌が悪いので、別々の部屋に」
「ああ。なるほどね。じゃあ、これに記入して」
私は風間さんの爆弾発現に、驚き、戸惑いつつ、風間さんをまじまじと見たけど、風間さんは気にした様子もなく、記入表に偽名の名前を書いていた。
「そんじゃあ、十四号室と十五号室に――」
おじさんは言いかけて一瞬固まり、困ったように頭をポリポリと掻いた。
「すまねえな。十四号室埋まってたわ。十五号室しか空いてねえわ」
「ええ!? そんな!」
私が思わず声を上げると、おじさんはにやっと笑った。
「まあ、でも夫婦なんだろ? 部屋行ってさっさと仲直りしてこいや」
――いや、夫婦違う。
気まずく思いながら、風間さんを見ると、風間さんも気まずそうに笑った。
「私は外で寝ましょうか?」
小声で私にそう言って、微苦笑した。
私は何だか申し訳ない気持ちになって、覚悟を決めた。
……ある意味ラッキーだと思おう。
「あの――」
私が声をかけた瞬間、それを遮るように店主が言った。
「安くしとくからよ」
「はい!」
風間さんは即答で答えて、ちゃっかりと鍵を受け取った。
……もう本当に、外で寝てもらおうかな。