私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
「お待ちどうさま」
そんなことを、ぼんやり考えたとき料理が運ばれてきた。
大皿からやんわりと煙が立ち昇る。目にも鮮やかな紫色やピンク色の食材があんかけ風の液体と一緒に麺類の上にかかっている。
紫色の食材は竹の子に似た形で、ピンク色の食材はピーマンに似ていた。他にも葉野菜がたっぷりと乗っている。肉は豚肉と牛肉の間の色という感じ。
匂いはだいぶ美味しそうだけど……。倭和とは随分違う。
警戒している私に風間さんが小皿を差し出す。それを受け取ると、大皿と一緒についてきたトングでよそってくれた。
「ありがとうございます」
「珍しいですか?」
顔に出ていたのか、風間さんが窺うように訊いた。
私は、「ですね」と苦笑する。
「どういうところが珍しいですか?」
「ピンクの食べ物があるところとか」
だって、桃とか、サーモンとかそういう色じゃない。ショッキングピンクなんだもん。紫はまだ、芋があるけど。
「ふふっ。そうですよね。私も、初めて見たときは驚きましたよ」
風間さんがおかしそうに笑った。
「え? 当たり前じゃないんですか?」
「違いますよ」
風間さんはお箸(といってもかなり長い箸で、菜箸くらいある)を私に渡した。
「紅瓜(コウカ)という永にしかない野菜なんですよ。この箸だって使う国と使わない国があります。功歩と瞑はフォークとナイフですし」
「へえ。そういえば、風間さんって結構他の国のこと知ってますよね」
永のこともあれこれ知ってるし。
「旅行が趣味だったりするんですか?」
「趣味というか、仕事上ですね」
「仕事……あれ? でも、風間さんの仕事って執事ですよね?」
「ええ」
執事って屋敷の中に居るイメージだけど。
「肩書きは執事ですけど、功歩国内で雪村様の身の回りのお世話をしているのは実際は別の人物になりますね。以前は私もそうだったんですけど……」
風間さんはちょっと残念そうに笑んだ。
「どうしてですか?」
「……人事異動、というやつです」
風間さんは笑んだ。何故だかその笑顔が、拒絶の色を表しているような気がした。愛想笑い、そのものという感じ。
聞かれたくないことだったのかな。
私は、とりあえず話題を変えようと小皿に取り分けられた料理に箸を伸ばした。
紅瓜は、触感はピーマンそのものだけど、味は何故か甘い。不味くはないけど、なんだか不思議な感じ。
紫の竹の子は触感が物凄く柔らかくて、硬いと想像してたから一瞬脳がパニックった。味は癖がない。
あんかけは、塩風味で美味しい。麺も、ちぢれ麺という以外癖がなく美味しかった。
肉に手を伸ばす。肉は、ラムに良く似ていたけど、ラムより全然食べ易い。食べた事がある味だ。
「これって、豚竜ですか?」
「そうですよ」
「豚竜ってどこにでもあるんですねぇ」
「ええ。この世界の肉の主流は豚竜ですからね。魚も食べますが、内陸部では魚よりも豚竜の方が消費されます。永は水の国ですから、魚の方が多いですよ」
「へえ。そうなんですね」
私は頷きながら、また料理に箸を伸ばした。