私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *

 上を見上げると、三メートルくらい先の地面に滑った後が僅かに見える。崖はそんなに高くないけど、登れそうにはなかった。直角に近いからっていうこともあるけど、崖は土くれで出来ていて、もしも上から引き上げてもらうことになっても、登ろうと力を入れた途端足元から崩れちゃいそう。
 私はとなりで同じように見上げている風間さんに声をかけた。

「私のせいで、すみません」

 風間さんは私の腕をとってくれたけど、ぬかるみにふんばりがきかなかったみたいで、一緒になって落ちてきてしまった。

「いいえ。お気になさらないで下さい。それよりも足は大丈夫ですか?」
「はい」

 私は打ちつけた右足を見た。痛みはあるけど、歩けないほどじゃない。今のところ、腫れてるようすもないし。

「風間さんは、どこかケガとかしてないですか?」
「はい。私はどこも」

 軽く両手を広げてにこりと笑う。
 そっか、ケガしてなくて良かった。

 気にしないでとは言われたけど、明らかに私のせいだもんなぁ……。申し訳ない気持ちで辺りを見回す。

 一メートルくらい先に湖が広がっていた。その周りは深そうな森が囲っている。どうやら私達は湖のちょうど淵に落ちたらしい。反動かなんかで飛ぶように落下してたら、湖に落ちちゃってたところだ。
 
「とりあえず、ここを離れましょう」

 風間さんが笑いかけて、淵沿いを歩き出した。今のは、愛想笑い……だと思う。やっぱり、ちょっとは怒ってるよね。
(ごめんなさい)
 私は心の中で謝りながら風間さんの後をついて行った。

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