私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *


 風間さんはしばらくして帰ってきた。両手に小枝を抱えて、腰には丸い毛玉みたいなものが括りつけられている。
(なんだろう?)

 ふと覗き込んで、思わず小さく喉が鳴った。

(ね、ねずみ?)

 それにしてはやけに大きい――し、色がどぎつい。原色の黄色だ。大きさはうさぎの倍くらいある。

「それ、なんですか?」

 私が指を指すと、風間さんはあっさりとした口調で答えた。

「デビマスです。昼食ですよ」

(ちょっと、待って。ねずみ食べるの!?)
 ひいた心が顔に出てたのか、風間さんは苦笑した。

「一応、全世界で食べられているので大丈夫ですよ。なんなら、魚でも捕って来ましょうか?」
「いえ! いいです! そんな。た、食べます!」

 大丈夫。食用らしいし、これ以上迷惑はかけられないもん。ねずみくらい……。

「ありがとうございます。ありがたく、いただきます」

 私は覚悟を決めた。


 * * *


 デビマスは、思ったより美味しかった。
 鶏肉のささみのぱさぱさした触感を無くしたという感じで、ほぼ鶏肉のような味だった。今日はとりあえず時間も時間だし、ここで野宿になるみたいだ。
すっかり夕方の色を濃くした湖のほとりで、焚き木が赤々と燃える。

 その火をなんとなしに眺めながら、向かい側にいる風間さんを覗き見る。
 炎に照らされた横顔は、なんだか物悲しく見えた。

 誰かを想ってるような、遠い目。心配と焦りがその瞳に映し出されているように思えた。
 多分、雪村くんのことなんだろうな。
 そんなに、主人のことが大事なんだ?

(バカみたい)

 拗ねた自分を一笑して、私は炎に目を向ける。

「どうしました?」

 不意に声を掛けられて顔を上げた。
 風間さんが、じっと私を見つめる。

「今、浮かない表情でしたが、どうかしましたか?」
「う、ううん」

 首をぶんぶんと振って、作り笑いをする。

「なんでもないです」
「そうですか?」

 風間さんはどことなく、心配そうな目をして笑った。

「はい」

 私はうんと頷いて、顔を伏せる。
 ああ、ダメだな。

 見ていてくれた……。そんなことくらいで、嬉しくなるなんて。嬉しくて、ちょっと泣きたくなるなんて。バカだな、私。

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