私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~


 * * *


 朝起きたとき、貞衣さんは自分だけぐっすり寝てしまっていたことに気づいて、少しばつが悪そうだったけど、私達にありがとうと一言お礼を言って頭を下げた。

 朝食は携帯食ですませ、私達は歩き出した。
 貞衣さんとは相変わらず、ピーチクパーチク世間話をしてた。男子陣は、だんまりで黙々と歩く。たまに、風間さんが振り返って話しに入ってきたりもしたけど。

 貞衣さんに面白い話を聞いた。
 なんで永の宿屋は恐持てで無愛想な店主が多いんだろうとぽつりと疑問を零したら、意外な事実が判明した。

 約百五十年前に、瞑と国交を結ぶまで、永は鎖国状態にあって宿屋は少なかったらしい。でも、国交を結んでから人の流れが出来て、宿屋を多くする必要に迫られた。
 しかし、当時は治安が悪かったため、宿屋には強持てで、用心棒代わりの従業員を置くようになる。
 今では高級旅館とかは、普通に愛想の良い接客になったらしいけど、ボロ宿ではそのなごりといえようか、今でも愛想の悪い者を置くことが根付いているんだとか。

 それで、あんなに愛想がなかったんだなぁって。すごく納得しちゃった。
 貞衣さんとのお喋りはすごく楽しくて、今日もあっという間に過ぎるんだろうなぁって思ってた。お昼を過ぎるまでは。

 昼食休憩を終えた後、なんだか急に身体がだるくなって、重苦しくなった。
 嫌な予感がする。熱が出たときにすごく似てる。

 私はちらりと、風間さん達に視線を送る。
 彼らはちょうど風呂敷に水吸筒や食料を片付けてるところだった。

 体調が悪いとは言い辛いなぁ。
 貞衣さんはまだお腹が目立たないとはいえ身重だし、風間さんは雪村くんのことがあるし。でも、貞衣さん達と出会う前にも体調悪くなったけど、もちなおせたから今回も大丈夫だよね。

 私はうんと頷いた。
 歩いてれば、ふっとんじゃうよ。きっと。
 ただでさえお荷物な私が、もっとお荷物になるわけにはいかない。

 私の気合が通じたのか、具合が悪かったのは最初の二時間くらいで、後はなんとか持ち直したみたい。

 深い森を抜け、土台が石積みで出来た大きな木の橋を渡ると、そこはもう際弦だった。

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