私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
* * *
眠ってしまったゆりは、熱があるながらも幸せそうだった。
この娘は本当に寝るのが好きだなと、風間は呆れた。これまで見てきたゆりの寝顔はいつでも幸せそうだったからだ。
しかし、風間は内心驚いてもいた。
体調の悪い自分を置いて食事をして来いと言ったこともそうだったが、雪村を心配するあまり焦っていることまで読み取られていたとは風間は夢にも思わなかった。彼女は、案外人をよく見ているのだなと、少し感心した。
寝息をたてるゆりを見つめながら、風間にふと笑みがこぼれる。
「二、三日、休んだって良いんですよ」
自分でも意外な言葉が口をついて、はっとした。
「なにをやってるんだ、私は」
自分の言動を嫌悪するように、風間は歯軋りをした。風間は複雑な心境でゆりを見つめた。風間は元々、ゆりがその内疲れ果て、熱なり何なり出して倒れるだろうと予測はしていた。
それでも歩くペースを緩めなかったのは、一刻も早く主に会うためだ。
たとえゆりが倒れても、暫く寝れば、魔王のエネルギーで復活することを風間は知っていた。
だから、ゆりの体調を顧みることはしなかった。
例え知らなくても、風間は確実にそうしただろうし、ゆりが魔王でなければ、容赦なく置いて行っただろう。
(それなのに、しばらく休んでも良いなどと思うなんて……)
風間はもう一度、ゆりを見つめた。今度は優しい面差しはない。眉を顰めて、苦々しい顔つきだった。
(雪村様)
風間は主の顔を思い浮かべた。
(今、どうしているのだろうか?)
雪村はどこに飛ばされたのか分からない。入国証は雪村が持っているから入国の心配はしないでも良いが、財布を持たない彼がどうやって国々を渡って功歩国へ帰るというのだろう。そもそも、功歩国のクラプションという町からあまり出たことのない雪村が無事旅していけるだろうか。風間は気が気ではなかった。
ただ、自分の心配は杞憂である可能性が高いことも風間は知っていた。雪村は元来社交性が高く、初対面の人にでも好かれるタイプだった。
気さくで明るいので、誰かに助けてもらえる可能性は高かったし、仮にも三条家の当主。山賊などに襲われても、屁でもないだろう。お人よしの面が顔を出さなければ、だが。
そう思うと、心配せずにはいられない。風間は生来の心配性だった。
風間は、重い腰を上げた。
古びたドアを開けて、部屋を出る。
ドアにもたれかかり、瞳を閉じた。
気持ちを切り替えるようにため息を吐いて、風間は呟いた。
「泣くだろうな……」