私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
* * *
翌日の早朝、すっきりとした目覚めで起きた。枕元に置いてあった指輪を眺める。頬がにんまりしてしまう。
るんるん気分で指輪を薬指にはめた。だけど、次の瞬間、少しの罪悪感が襲ってきた。貞衣さん達があんな目に遭ったばかりなのに……。
私は複雑な気持ちで指輪を握った。
(はめて出る? 風呂敷にしまって置くべき?)
「う~ん!」
唸ってから、私は指輪を右手の人差し指にはめた。
せっかく買ってくれたのに、はめて出ないのは失礼だもん。
ドアを開けると、ちょうど向かいの部屋から風間さんが出るところだった。思わず風間さんの指を見る。
……してない。
ちょっとがっくり。
(指輪に気づいてくれるかな?)
私の期待は、見事に崩れた。風間さんは私の指を見ることもなく、おはようございますと、言っただけだった。
(チェッ)
やっぱりあれは、たんなる気まぐれだったんだ。
でも、ま、いっか。嬉しい事には違いないわけだし。
「おはようございます」
風間さんに返して、私達は宿屋を出た。
所陽まではここ、実那鬼から徒歩で一時間ちょいで着く。なので、私達は実那鬼で朝食を摂らずに、所陽で摂ることにした。
所陽への道のりには、早朝だと言うのに、結構な人通りがあった。
旅人風の人、行商に向う農家の人、四足竜が行きかう。これまでの道よりも道が、整備されているような気がした。
道中は相変わらずの会話のなさだったけど、なんだかそれにもなれた。何も言わずにいれるというのは、案外良い事なのかも知れない。
私は、景色を眺めながら歩いた。
平坦な道。少し小高い丘。高い山がなく、全体的に見通しが良い。これまで森の中を行くことが多かったから、なんだか新鮮な感じがした。
その後森を通ることはなく、ひらけた道を通り、私達は永での最終目的地に着いたのだった。