私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
* * *
私達は、軽く朝食を摂って瞑行きの船を捜した。
船はすぐに見つかった。
何せ、停泊中の船の殆どが瞑行きだったんだから。
ざっと見ただけで二十隻くらいの客船があって、その内の十五隻くらいが瞑行きで、あとは美章行きと、倭和行きだった。
功歩行きの船はなんでないのかと私が訊ねたら、船乗りのお兄さんは微苦笑した。
どうやら、功歩と瞑はいまだに仲が良くないらしく、瞑と仲良しの永は船を送ることができないのだそうだ。
できないことはないのだろうけど、憚られる。
そんなニュアンスだった。
永と瞑は百年近く同盟を結んでいて、国交も盛んらしい。永はその間、戦争の経験がなく、平和だったらしい。その百年で戦争に参加したのは、先の世界大戦の時に瞑の要請で出兵したときだけらしい。 色々と、爪跡的なものもあるんだろうな。
私達が乗ることになったのは、今から三十分後の射刻半(八時三十分)に出航の中くらいの船で、塗装も作りもしっかりしている船だった。
船の中は、客席はなく、ガランとしている。そこに、寝そべっている人や、壁にもたれて座っている人が、ちらほらといる。
私達も、入り口近くの壁にもたれて座っていた。
「どうしてこの船にしたんですか?」
出航が早いからかとも思ったけど、十五分後に出航の船もあった。しかもその船は安かったし、小さかったけどしっかりした船だった。当然それに乗るんだと思ったのに。
この船は、しっかりとはしてるけど、大きくはないし、予想の値段より、言っちゃなんだけど、大分高かった。大型の豪華客船と、同じくらいだった。
「この船の真下には、随獣(ずいじゅう)という竜がいます」
「え!?」
「随獣というドラゴンは、四足竜の海版とでも思えば良いでしょう。船を牽引してくれます。最も速く泳ぐと言われる獅牛(しぎゅう)には遠く及びませんが、それでも普通の船よりは早く着きます」
「なるほど……」
そこで、ふと気がつく。
そういえば、どれくらいの船旅になるのか聞いてなかった。なんとなく安易に、数時間程度かな、なんて思ってはいたけど。
「どれくらいで着くんですか?」
「二日から三日ですね」
「そんなに!?」
思わず声を上げてしまった。
風間さんが少し怪訝な顔をする。
「ええ。しかし、随獣がいなければ、もっとかかりますよ。五日から、遅い船なら十日程かかるかと」
そっか、そんな距離なのか。
どれくらいの距離なのかはっきりしたことは判らないけど、なんとなく、すっごく離れてることだけは判った。
あっちの世界では飛行機やら、新幹線やら、なんちゃらモーターやら、便利で速いものがあるんだもんなぁ。
私は気を取り直して、他の質問をすることにした。
「さっき言ってた、獅牛っていうのもドラゴンなんですか?」
「ええ。そうです。獅牛も、随獣も、永国の固有種です。ですが、獅牛は大変珍しく、滅多にお目にかかれないみたいですけどね」
「へえ……どれくらいの速さなんですか?」
「そうですね。海の状態と個体差によるとは思いますが、随獣が瞑まで三日だとするなら、獅牛は、二刻(二時間)から五刻程(五時間)で着きますね」
「速っ!」
「ええ。速いです。永国の軍は獅牛を保有しているみたいですが、やはり数は極端に少ないですね。正式な数はわかりませんが、やはり数が少ないので軍事目的で使用されることは殆どありませんね」
(と、いうことは? 軍が持ってるけど、軍事利用はしないということは、え~と……?)
私が首を傾げていると、風間さんが見かねたのか。
「瞑への救援物資に使われた事は何度かありますが、攻撃目的に使用したことは殆どないという意味です。分かりにくい言い方でしたね。申し訳ありません」
ぺこりと頭を下げる。
いえいえ、こちらこそ、理解力が足りず……と、頭を下げ返した。
「実際に攻撃目的で使われたことはあるんですか?」
「私が知る限りでは、先の大戦の時にしかありませんね」
先の大戦というと、功歩に対して瞑からの協力要請があって、永が手を貸したっていうやつか。
――プォ、プォー。
会話をしているうちに、あっという間に三十分が過ぎたみたい。出発の汽笛が鳴る。ゆっくりと船が動き出し、所陽の港から離れるのを感じた。