私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

「あれ?」

 風間さんがいない。
 客室に戻ってきたのに、風間さんの姿がどこにも見えない。人数は、数えるほどしかいないから、見当たらないわけないのに。
 どこに行っちゃったんだろう?
 
 知らない空間に、一人きり。急に不安が過ぎる。
 私は沸いて出た不安を押し殺して、入り口近くの壁にもたれた。
 すると、ゆらりと入り口に影が出来た。

「――風間さん?」

 私は思わず唖然としてしまった。
 風間さんが、青白い顔をして立っていたのだ。

「だ、大丈夫ですか?」

 駆け寄って腕を捕ろうとすると、風間さんがそれを制した。

「大丈夫です」

 短く言って、よろよろと壁にもたれる。

(誰がどう見ても、大丈夫じゃないと思うんだけど……)

 だけど彼の『近寄らないで下さいオーラ』に、寄る事もできず、私は入り口を隔てた反対側に腰を下ろした。

 ちらり、ちらりと風間さんを盗み見る。その度、彼は若干不機嫌なオーラを出した。若干という所が、なんとも風間さんらしい。
 数回に一回は力なく愛想笑いをしては、俯く。

(これって、多分、船酔いだよね)

 随獣に引かれているためか、通常の波による揺れは殆どない。ただ、跳ねる感じはたまにある。

 結構なスピードが出ているモーターボートに乗っている感じだ。でもあれよりは、跳ねもスピード感も格段に少ない。
 どっちかっていうと、砂利道を走っている車に近いかも知れない。

 遠慮せずに横になればいいのに。そう言おうとしたとき、突然風間さんが走り出した。デッキに身を乗り出してえずく。

(どうしよう。背中擦った方が良いのかな?)

 私は遠慮しながら近づいて、恐る恐る背中を擦った。風間さんが驚いたような顔で振り返る。
 そして、にこりと笑った。

「……いつものことですから、放っておいて下さって結構ですよ。我慢すればいいだけですから」
 
 言葉は丁寧で、顔は笑ってるけど……拒絶だってすぐにわかった。
 この旅で何回目だろう。
 いくら私が馬鹿だったとしても、これだけ一緒にいればわかる。愛想笑いくらい見抜けるようになるわ。
 なんだか、怒りの感情がふつふつと湧いてくる。
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