私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 この人は、どうしてそうなんだろう。
 イヤなことはイヤ、辛い時は辛いって言えば良いじゃない。

 どーしてそんなに押し殺すわけ?
 我慢するわけ?

 風間さんはまたにこりと愛想笑いをして、客室に戻ろうとした。私はその腕を掴む。

「なんでですか!?」
「……は?」

 思わず大きくなった声に、風間さんは唖然とする。
 私はそれでも構わずに声を荒げた。

「なんで、辛い時は辛いって言わないんですか!? ちょっとくらい頼ってくれたって良いでしょうが!」
「……は、あの――」

 珍しく風間さんが狼狽する。
 無意識に握った腕に力が入った。
 
「……なんで拒絶するのよ」

 こんだけ拒否されれば、いいかげん私だって傷つくのよ。
 人の善意や好意くらい受け取ったって良いんじゃないの?

 いらぬ親切ってのはあるんだろうさ。でも、具合悪そうにしてたら介抱してあげたいなとか、大丈夫ですかの一言くらい言いたいなとか、あるでしょうよ!

「どうしてそんなに押し殺すんですか!?」

 私はアホみたいに叫んだ。
 その瞬間、心が萎縮する。
 いつもの、柔和な表情がそこにない。風間さんは真顔になった。無表情に近くて、でも怒ってるのは明らかで。
 冷たい目。敵を射抜くみたいな、嫌悪感を抱いた目。

(ああ、私、どうしよう)

 風間さんは思い切り私の腕を振り払う。反動で私はよろめいた。

「……では、私にどうしろと言うのですか」

 冷静な口調だ。
 声だけ聞いたら、平常心だけど、表情は明らかに怒ってる。

「……どうしろって、だから、もっと頼って欲しいなって……」

 しどろもどろに言うと、風間さんは、

「貴女に頼ってどうなるっていうんです?」

 鼻で笑った……。鼻で笑いやがったなぁあぁ!?

「そりゃ私は小娘かも知れませんよ? この世界のこともなんにも知りませんよ? だけどね、船酔いの看病くらいできるわ!」
「ですから、放っておいて下さいと言っております!」

 彼は珍しく語気が強い言い方をした。
 そりゃそうだ、怒ってるんだもん。

「でも私だって倒れたとき看病してもらったじゃないですか!」
「だからなんですか。それが今回と関係がありますか?」
「あるでしょーよ! 恩返しでしょーよ!」
「いりません」
「なっ――!」
「必要ありません」

 即答に次ぐ即答に絶句する。

「……この、石頭!」
「……は!?」

(ああ、もう! 風間さんは、風間さんはねぇ!)
 唖然とする風間さんをキッと睨みつけた。
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