私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *

 更衣室から出てきた風間さんは、執事風のスーツ姿と違ってなんだか身近なというか、近寄りやすい印象になった。髪はお団子にしてるし、仕事モードから抜けましたよ、みたいな。

「風呂敷はありますか?」
「あ、はい。こちらに」

 返事をした店主の変わりに、中年の女性が風呂敷を持ってきた。
 それを風間さんに渡すと、風間さんは自分が着ていた服を差し出した。

「代金はこれで足りますよね?」
「ええ。十分です」

 店主は満足げに頷く。

「もう四、五着買えるくらいの値があると思うのですが」

 風間さんが催促するように言うと、店主は明らかに苦いをした。

「ええ……ですが、うちは――」
「いえ。そういう事ではなく」

 渋りそうな店主にピシャリと風間さんが告げて、店主の腕を捕った。そのまま、ヒソヒソ話をする。
(なんだろ?)
 不思議がっていると、ちらりと店主と目が合った。

「わかりました」

 店主はどこか嬉しそうに頷いた。
 風間さんは店主から離れて、私の前に来ると思いがけないことを言った。

「私は先に出ますので、少々お待ちください」
「……え!?」

 なんで? わけを訊く前に、風間さんはさっさと店を出て行ってしまった。
 わけが分からないまま、数十分間一人でいると、だんだんムカついてきた。なんで、一人でこんなところに残されなきゃいけないんだろう。
 風間さん、ひどくない?

「お待たせしました」

 やっと中年の女性が来て、風呂敷包みを渡された。

「あの、これなんですか?」
「お連れ様に頼まれた品でございます。店主に説明を頼まれたのですが、よろしいですか?」
「あ、はい」

 私が返事をすると、女性は風呂敷を解いた。中には、下着が入っていた。綿パンツだけ三枚。それと、白い布。
 あとは、なんだかよくわからないものだった。皮のような、鱗のような、テカテカと光っている板だ。それが二枚ある。

「これは、月物(ゲツブツ)の時に使います」
「月物?」

 訝しんだ私に、女性はそっと耳打ちした。

「月に一度、女性にだけ訪れるアレでございます」

 ああ! あれ、アレね! え、これ、頼まれたって言ってたよね。
 や、なんか恥ずかしいんだけどっ!

 私が顔を赤くしていると、女性が皮のような鱗のような物を取って、私に渡した。
 見た目は板という感じでいかにも硬そうだったのに、それは思ったより数倍柔らかく、柔軟だった。

「これは、尻物(しりもの)と言って、吸魂水竜(ドラクル)と呼ばれる水竜から取れる鱗です。これをこの布で固定して使います」

 女性の説明によると、ドラクルから取れる鱗には水を吸う性質があり、それを加工したのが尻物だそうだ。
 
 尻物は下着と一緒に見せられた白い布で固定して使うらしい。私は女性にやり方を教わった。
(このために風間さんは外に出てたんだ。店主もいつの間にかいないし) 

 元々水筒代わりだったのが、そっちにも使えるってことで発展したらしい。なので、水筒もこの鱗を使うんだとか。
 
 水筒は水吸筒(すいきゅうとう)と言って、鱗を削らずに使うから、尻物より厚みがあるらしい。
 大きさは変わらないけど、尻物の厚みが三ミリくらいなら、水吸筒は三センチはあるんだそうだ。
 二リットルくらいは蓄えておけるらしい。ただし、重さは二リットル持つのと変わらないらしいけど。
 
 水分を取り出したいときは、水吸筒の場合は、水筒の中に入れて、絞ると水が出るのでそれを飲む。専用の柔らかい素材の水筒があるんだそうだ。
 加工してないので毎日使っても一ヶ月は持つらしい。しかも鱗には抗菌作用や浄化作用があるんだとか。

「これって、もしかして高いんじゃないですか?」

 竜の鱗なんて貴重な気がする。捕まえるのだって大変だろうし。もしそうだったら、なんだか申し訳ない。
 訊ねると、女性はおかしそうに笑った。
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