私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *


 あの後、すぐに風間さんがもどしたので、お爺さんは気を使って退散した。トイレに行き、そして少し離れたところに座った。
 私は何気なくそれを見届けつつ、風間さんのお腹を擦る。

「それ、やめてもらえませんか?」

 風間さんが、嫌そうに眉を顰めた。
 そんなに嫌かな。

「そんなに嫌ですか? お腹擦られてると、安心しません?」

 同意を求める声に、風間さんはなお眉を顰めた。
 でも、こんな風間さんも珍しい。
いつもはにこやかな表情だけだもんなぁ、なんて暢気に思う。

「……慣れないんだよ。そういうの――」

 風間さんはぼそりと呟いて、はっとして自分の口に思い切り蓋をした。両手が唇や頬をパシン! と叩く音が響く。

(なになに、どうしたの。いきなり?)

 私は一瞬混乱して、そしてはたと気がついた。
(うわあ……珍しい。珍しすぎる)

「タメ口だぁ」

 私は嬉しさに震えたけど、風間さんは反対に、なんだろう、恥辱? 後悔? に震えているようだった。
 がばっと、起き上がって、両手をついて頭を下げる。

「申し訳ありません」

 いや、だから、そんなに謝ることかな? 前から敬語はやめて欲しいって言ってたんだし。

「あの――」

 言いかけて、風間さんがエチケット袋ならぬ、水吸筒にもどした。もう胃液しか出ていない。

「あ~あ~……そんなに急に動くからですよ」

 たしなめるように言って、私は風間さんを寝かせた。また膝枕をする。
 なんだか、世話焼き女房になったみたいで嬉しい。って、女房っておこがましいぞ。自分! なんて自分を戒めつつも、本音は隠せないんだなぁ。

「風間さん、横向けますか?」

 ちょっと声が弾んじゃった。
 風間さんは私に背中を向けた。
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