私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 私は恐る恐るカンテラの蓋を開けて、中のロウソクに近づける。するといきなり火打竜は、ぶわっと火を噴いた。びっくりして思わず火打竜ごと落としそうになる。

 赤々と灯った火に満足したのか、火打竜は私の手を這い自分の檻に戻った。
 私はほっと息をついて、鳥肌が立った左手を擦った。

 室内をカンテラの灯りにかざしてみたけど、風間さんの姿はなかった。
 振り返って、出入り口の方に光を当てる。


 そこにも風間さんの姿は見つけられなかった。
(トイレかな?)
 そう思った時、えずく音がどこかで聞こえた。

(風間さん?)
 入り口からデッキに出て、光を左右に振ると、甲板に人影が見えた。

 ゆっくりと近づくと、その人物はゆっくりと振り返った。
 顔色の悪い、若干涙を浮かべているようにも見える、男性。

「大丈夫ですか、風間さん」

 声をかけると、風間さんは力なく座り込んだ。
 大分辛そうだった。

 そりゃそうか。私も経験があるもん。
 吐く物もないのに、吐き出さなきゃいけないのはさぞ辛いだろう。
 
 私はそっと彼の肩に手をかけた。
 風間さんはゆっくりと息を吐きながら、顔を上げる。
 私と目が合って、うんざりそうに頬を自分の手に埋めた。

(だいぶ、まいってるなぁ……)

 酔い止めでもあれば良いんだけど。

「風間さん、この世界に酔い止めの薬とかはないんですか?」
「……酔い止め? 聞いたことはありませんね」

 言い方に少しだけ棘がある。
 具合が悪から余裕がないんだろう。
私は、風間さんの脇の下に肩を入れた。

「立てますか?」

 訊ねると、風間さんは足に力を入れてよろめきながら立った。
 頭痛がするのか、頭を抑える。

 そういえば、風間さんって船に乗ってからあんまり水分摂ってない。っていうか、飲んでるの見てない。
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