私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
* * *
客室に運ぶと、置いてあった水吸筒の中を覗いた。
吸いきれなくなったのか、鱗がぱんぱんにふくらみ、胃液が少しこぼれていた。
(だから風間さんは外に出て……)
「風間さん、これ洗ってきますね。横になっていて下さい」
「いえ、そんなこと貴女にさせられません! 自分で行きます!」
風間さんは慌てて私を止めようと、座っていた体勢を崩した。
「いいえ、私がしてきます! 風間さんは寝ていて下さい!」
押し切って、カンテラを持った。そのまま地下へ小走りで向った。
階段には灯りがない。ちょっと不気味だけど、下りてすぐにランプがあるからか、段は確認できる。私は慎重に階段を下りて、洗面所に入った。
ドアのない小部屋から見る廊下は、なんだか不気味だ。廊下に灯されているランプの薄い光がゆらゆらと揺れる。
幽霊でも出そう。
背筋を悪寒が走る。
「さっさと終わらせよう」
私は、水を汲もうと桶を外す。そこには、真っ暗な穴があった。まるで、闇がぽかんと口を空けてるみたいで気味が悪い。
急いで桶を穴に落とすと、ちゃぽんと水の跳ねる音がして少しほっとした。
暗闇から桶を引き上げる。
そのまま桶に水吸筒から取り出した鱗を入れて、手で押す。すると、鱗の中から黄色い液体が飛び出した。
胃液だ。
これは、いくら好きな人のものでも、イヤ。
思わず顔を顰めるけど、不思議と臭いはしない。小首を傾げたところで、そっかと気づいた。
鱗には浄化作用があるんだった。
液体が出てくるのを見ていると、徐々に透明になって行った。
桶が溢れそうになったので、慌てて中身を穴の中へ投げ捨てる。素早く鱗を桶に戻した。流れ出る液体にちょっと手を濡らしちゃったけど、なんてことはない。ただの水になってた。
「すごいなぁ」
(ドラクルって、すごい生き物だなぁ……。元の世界にもいたら、汚染された水だって飲めるようになるのに)
最後の一滴までぎゅっと絞って、水吸筒に鱗を戻した。すると、零れていた胃液を鱗が吸った。
それを何気なく見届けて、私は手を洗って客室に戻った。