私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 風間さんは、壁にもたれて足を投げ出していた。私は隣に座って、風間さんに膝枕を促す。でも、風間さんは首を横にふった。

「どうしました?」
「いえ、やはりそこまで貴女にしてもらう義理はありませんから」

まぁだ、そんなこと言ってるの?

「困った時はお互い様って言いませんか?」
「いえ……」

 風間さんは言いよどんで俯いた。

「じゃあ、お水。少しでも飲めますか?」

 そう訊くと、風間さんは露骨に嫌そうな顔をする。そして、笑んだ。例の、いつもの、愛想笑い。

「いえ、結構です。いつも船旅の時は飲まず食わずで過ごすので」
「それって、結構危険ですよ?」

 多分。

「脱水症状になったらどうするんですか?」
「……」

 風間さんは押し黙る。
 畳み掛けるように、多分一番風間さんに効くであろう一言を告げた。

「雪村くんに、会うんでしょう?」
「……」

 風間さんは、眉間にシワを寄せて目を閉じる。そして、何かを考えた後、渋々手を差し出した。

(やっぱ、効果あった)

 私は、してやったりなような、若干悔しいような、複雑な気持ちで微笑む。
 その手に飲み水用の水吸筒を手渡した。
 風間さんが一口、口に含んだ。そして、そのまま倒れこんできた。コロンと私の膝の上に頭を乗せる。

(えっ、なに?)
 私は驚いて目を丸くする。風間さんは私を見上げた。

「また、背中……擦って下さい」

 バツが悪そうに、歪む口元。恥ずかしそうにすぐに瞳は伏せられた。そして、身体を横に向ける。

(可愛い!)

 踊り狂いそうなほど、胸が躍った。

「はいっ!」

 明るく返して、風間さんの背を擦る。
 こうして、船旅一日目の夜は更けていった。


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