私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
吐き気を覚えて、水吸筒を見るが、鱗は吸える状態ではなかった。
仕方なくデッキに出て吐いて、見上げた星空に、つい足を踏み出した。
甲板まで歩き、やはりここが一番落ち着くなどと思い、ふと思い出す。
雪村と旅をした時に、彼にうっかり見られてしまい、色々な世話を焼かれた事が一度だけあった。
まだどちらも幼かった時だが、身分も力も下の自分の世話を焼いてくれる事を、嬉しく思っていた。
雪村とゆりは、どこか似ているところがある。と、風間は思う。
立場が上であっても偉ぶらないところとか。人の面倒を見たがるところとか。
人から愛されやすいところとか……。
感傷に浸るような思いでいると、また吐き気に襲われた。
そして背後から気配を感じ振り返る。
カンテラの明かりに照らされて、少女の青白い顔が浮かんだ。
心配そうな瞳で、自分を見つめている。
風間はなんだか、脱力してしまった。
そのまま座り込む。
ゆりが慌しく駆け寄ってきて、風間は客室へと戻された。
ゆりが水吸筒を洗いに行っている間、風間は苛立っていた。
自分の体質にもうんざりしていたが、世話を焼かれる事がやはり慣れなかった。
その苛立ちは、自分へのふがいなさなのか、体質への恨みなのか、放っておいてくれないゆりへの腹立しさなのかは、わからなかった。
しかし、洗面所から駆けてくるゆりをみて、風間はどこかほっとした。
だがやはり、人に頼るという事をしたくはなかったので、最後の意地と言わんばかりに、膝枕を拒否してみたが、ゆりにあっさり言い負かされてしまった。
風間はそのまま目を瞑る。
やわらかな感触に包まれて、なんだか人に甘えるということを、してみても良いような気になった。
「また、背中……擦って下さい」
ぽつりと出した言葉だったが、彼にとっては勇気を必要とするものだった。
ゆりは随分、驚いた表情をしていた。
少しだけ不安になりながら、風間はそのまま背を横に向けた。
「はいっ!」
明るく、嬉しそうな返答が返ってきて、風間は安堵した。
擦られる背が心地よく、風間はすぐに眠りに着いた。