私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
* * *
私が起床してから一時間くらい過ぎた頃、風間さんは目覚め悪そうに、目を覚ました。頭がぐらぐらするのか、こめかみを抑えて起き上がる。
「厠に行ってきます」
風間さんがそう告げて、ふらふらしながら階段を下りて行った。
私はあの瓶を風呂敷包みから取り出す。
「効くと良いな……」
ひとりごちて、瓶を握った。ああ、緊張する。
でも、出来るだけ自然に、私も知らなかったんですけど的な感じで。でも、もしかしたら、私の世界の物って言った方が信じるかも知れない。
鞄に入ってた――いや、鞄ないしな。制服のポケットに……は、無理か。どう考えても入らないもん。
どうしよう。
そもそもどうして私が持ってるのかって話だもんね。
暫く悩んだ結果、ポケットの中に錠剤の薬が入っていて、お爺さんに瓶を貰ってそれに水で溶かした。という設定にした。
なんとなく、風間さんには私の世界の物と言った方が信じてもらえる気がするし。
そこに、風間さんがおぼつかない足取りでやってきた。
風間さんはちらりと私を一瞥して、壁にもたれるように座り込んだ。
(よし、行くぞ!)
「これ」
私が瓶を差し出すと、風間さんが怪訝な顔をした。
軽く咳払いをして、切り出す。
「これ、私の世界の薬なんです」
「え?」
「そういえば、私酔い止めの薬を持ってたなって、思い出したんですよ。私、船には酔いませんが、バスっていう乗り物には酔ってしまうので。それでポケットを探ってみたら、あって」
「……瓶に入ったままですか?」
おう、不審がっていらっしゃる……。
「いえ、錠剤だったんですよ。それを水に溶かして使うんです」
「錠剤とは?」
「えっと、錠剤は粉末した薬などを固めた物のことです」
多分。
「はあ……。固められるんですか」
風間さんは感心したような声音を出した。
「ええ」
「それをわざわざ水に戻すんですか?」
効率が悪いというような目線。
うん……たしかにね。
「そのまま錠剤のままで飲むことの方が殆どですが、風間さんは今胃がすごく荒れてる状態だと思うんです。少しでも胃に負担がないように、こうしました。胃が荒れているときは、すぐに吸収される形の方が良いですから」
超適当。
ヤッバイくらい適当で、ごめんなさい。
私は笑顔が引きつらないように、気を配る。
ああ、顔に出てないと良いなぁ。
こうなったら、ぼろが出ない内に、さっさと勧めよ。
「瓶はお爺さんに貰ったんですよ。さ、飲んでみて下さい」
風間さんは若干胡乱気な顔をしたけど、瓶を受け取った。
しげしげと眺めて、
「これ、そのまま口をつけてしまって良いのでしょうか?」
「あ、はい。全然大丈夫ですよ」
さあ、どうぞどうぞ!
逸る気持ちを、ぎゅっと堪える。
風間さんは、栓を抜いて一口、口に含んだ。
眉間にシワが寄って、いかにも苦いという表情になる。
ぐっと堪えるようにして、飲み込んだ。
これで、効いてくれると良いんだけど……。
私の願いは、天に届いた。暫くして、風間さんの船酔いは、信じられないことに、ピタリと止んだ。
――すごい、プラシーボ効果!