私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 風間さんは薄暗い闇の中で、辛そうにこちらを見た。

「横になるのと、座ってるのって、どっちが楽なんですか?」

 気を使っていることを悟られないように、なるべく気楽な感じで訊いてみる。

「そうですね……」

 少し言いよどんでから、苦笑交じりに答えた。

「横になる方が楽です」
「じゃあ、横になられたらいかがですか? 膝枕とは言いませんから」

 そう訊くと、風間さんの顔が曇った。
 なにやら思案するような表情をして、意を決したように私を見つめた。
 真正面から見据えられて、ドキっとする。

「お願いできますか?」

 主語がなかったけど、何を指しているのかすぐに分かった。

「はい。良いですよ」

 返事を返して、膝を折る。
 いわゆる女の子座りをして、太ももを軽く叩いた。

(さあ――ドンと来い!)

 風間さんは、眉間にシワを寄せた。
その表情が、どこか恥じらいというか、屈辱というか、そんな想いを抑えているようにも見えた。

 ゆっくりと私の太ももの上に頭を置いた風間さんは、そのまま背を向けて横になる。私は風間さんの背を擦った。
 私は頼られた嬉しさでいっぱいだったけど、風間さんがどう思っていたのかは分からない。風間さんはすぐに瞳を閉じてしまったから……。

 暫く擦ってると、眠気が襲ってきた。
 がくりと寝落ちして、びっくりして目が覚める。

(いかん、いかん)
 頭をブンブンと振って、目をこすった。

 どれくらい寝ちゃったんだろう……。
 周りを見渡すと、ランプに照らされた壁掛けタイプのウロガンドが目に付いた。大きさは普通の壁掛け時計と同じくらいだ。

 時刻は、魚刻。午後十一時だった。
 良かった。それ程経ってない。私が覚えてる時刻は十時五十分くらいだったから、十分だけしか経っていなかった。

 ほっと一息ついて、風間さんを見る。
 風間さんの寝息は聞こえなかったけど、安らかな顔をしていた。

(あれ、そういえば……)
< 70 / 108 >

この作品をシェア

pagetop