私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
船の異変に気がついて、キョロキョロと辺りを見回す。船の揺れが極端に少なくなっている。良かった。どうやら、嵐を抜けたみたい。
「起きていらっしゃいますか?」
突然した声にびっくりして、心臓が跳びはねた。ドキドキする胸をなでると、風間さんが寝返りを打つ。
空色の瞳と、目が合った。
その表情が穏やかで、なんだかすごく胸が切なくて、苦しい。
「少し、お話してもよろしいですか?」
なんだろう。風間さんが話なんて……。なんか、珍しい。
「私は、貴女に謝らなければならないことがあります」
「え?」
なんだろう?
なんかされたかな?
「昨日、私が『私は弱くない』と言った事を覚えてますか?」
「え? ああ、はい。覚えてます」
自分の身勝手さを反省した出来事だもん。
忘れるわけない。
「私は、弱かったんですよ」
「え?」
「昔、子供の頃、落ちこぼれと言われていました」
落ちこぼれ? 風間さんが?
とても信じられなくて、まじまじと風間さんを見てしまう。
風間さんは、苦笑した。
「三条家に生まれた者は、皆能力を持って生まれます」
「たしか、結界師だと聞きました」
「それは、少し語弊があります」
「え?」
マジで?
アニキには、そう聞いたけど……。
「外の者は総じて三条家は結界師だと思っていますが、実は違います」
「へえ……!」
「三条家に生まれる者は、空間操作と空間把握に長けた〝結界師〟と、術式に長けた〝呪術師〟がいます。呪術師は」
風間さんは言いかけて胸の内ポケットを探った。黄色い呪符を取り出す。
「これを造れるのが、呪術者です。様々な術を式に書きおこし、紙に封じる。そしてそれを誰にでも使えるようにすることが出来る」
そういえば、屋敷にいたときに雪村くんがそんなようなことを言ってたような気がする。
「そんなことが出来るなんて、すごいですね」
「ええ。できるんですよ。彼ならね」
――彼。
そう言って、風間さんは優しい目をする。
自分の好きなものを誇るときの目だ。多分、彼は雪村くん。多分っていうか、絶対。
「風間さんって、雪村くんのこと好きですよね」
「……え?」
びっくりしたように目を丸くする風間さんに、私は以前からの疑問をぶつけてみた。