私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
「なんとなくなんですけど、雪村くんに対する風間さんの感情って主従関係を超えてるような気がして……」
「……」
風間さんはしばらく黙った。
やばい。地雷踏んだ?
「私は……空間把握能力のみを持って生まれました」
「へ?」
ぽつりと呟いて、風間さんは私を見上げた。どことなく、悲しい目をして私を見つめる。なんだか、私まで哀しくなってしまう。
「多くの三条の者は結界師として生まれるのですが、呪術師として生まれる者は、ごく僅かですなのです。それでも、結界の能力は全世界で比類のない者達ばかりです。そんな中で、私は空間把握能力のみを持って生まれました。操作能力は微々たる物で、持って生まれた空間把握も三条の誰よりも劣っていました」
おまけに虚弱体質で――自嘲が張り付くように笑う。
そんな風間さんを見ると、切なくなる。風間さんの顔が曇った。
「〝弱い〟と馬鹿にされて育ちました。そんなやつらを見返したくて、私はここまでやってきました。強くなったつもりでいたのです」
「だけど」と、風間さんは少し哀しげに笑った。
「本当に強いというのは、優しい人間のことなのかも知れません。彼はね、功歩の人間だろうと、どこの国の人間であろうと、分け隔てなく接する。誰にでも優しく、大らかだ。見せ掛けの私とは大違いで」
「そんな! 風間さんだって、十分優しいのに」
「いいえ。貴女が言ったことは当たりなんですよ。ゆり様。私は優しいふりが得意なだけなんです」
うっ。たしかに、言ったけど。
風間さんは悪びれたようすもなく、にっこりと皮肉まじりの笑みを浮かべた。
もう、意地悪だなぁ。
「そういう、誰に対しても明るくて優しい人間はね。世間からつまはじきにされて、身内から陰口の対象であった者には、神にも等しくうつる瞬間があるんですよ」
風間さんの表情はとてもやわらかい。でも、私はすごく泣きたくなった。