私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
* * *
船を下りてすぐにお爺さんを探したけど、お爺さんの姿は見つけられなかった。
(何かお礼がしたかったんだけどな……)
瞑国、燦引の建物は西部劇で見るような木造建築が建ち並び、道は永国と違って土や苔はなく、大地がむき出しになっていて、砂塵が僅かに舞っている。
大通りを外れて、路地を行くとその宿はあった。
木造建築の洋館風の建物。木の壁は白く塗られているけど、剥げている箇所が幾つかあって、そこは木の色がむき出しになっている。木の柱はそげ落とされたようにボロボロで、今にもポキッと折れて崩れてしまいそう。
まさにオンボロという言葉が似合う。
もしくは、廃墟か。
(ここに泊まるのか……)
幽霊屋敷という言葉が浮かんでぞっとした。
ふと、視線を感じて目を向けると、風間さんが窺うように私を見ていることに気づいた。
「ここで、大丈夫でしょうか?」
イヤだと言ったら、もう少しグレードアップしたところに泊まれるんだろうか?
「これから功歩までどれくらい掛かるんでしょうか?」
「そうですね。四足竜に乗るなら、ここは瞑ですから、国柄も考慮に入れると、一ヶ月半から二ヶ月くらいでしょう。騎乗翼竜、ラングルであるなら五日から七日程度。他の騎乗翼竜なら、どれくらいで着くのかはその翼竜次第です。もしも一番速い翼竜に乗れるなら三日で着くでしょうが、一般ではあまりお目にかかれませんね」
「四足竜と騎乗翼竜ってそんなに時間差があるんですか!?」
私が驚くと、風間さんは頷いた。
「四足竜は大抵時速六キロで歩きます。走らせる場合は三十キロは出ますが、戦闘以外で走らせる事は滅多にありません。その点、ラングルは通常六十キロで空を駆けますから、速さが段違いです。ただ、今の時期は寒いので、そんなに長時間は飛んではいられないでしょう。ドラゴンは問題ないですが、人間がもたないので……。大体の飛行時間は、一日に六時間程度でしょうか」
「そうですか……じゃあ、陸か空かどちらから行きますか?」
「正直なところ、予算の都合上四足竜になると思います」
「予算的に、こういう宿以外に泊まる余裕は?」
「ありません。残念ながら」
そっか。
「じゃあ、食事の予算などはどうでしょうか?」
「その辺りは、多分問題はないと思いますが……やはりあまり贅沢はできないでしょう」
「わかりました。じゃあ、この宿に泊まりましょう。予算がアレだったら、一緒の部屋でも構いませんから」
私が笑むと、風間さんはなんだか驚いた顔をしていた。
「こうやって、二人で話し合いなら決めていきましょうね」
嬉しいんだ、私は。
前は遠慮して言えなかったし、訊けなかったけど、風間さんは訊けばちゃんと答えてくれる。
こうやって、遠慮せずに二人で話し合って決めていけたら良いな。
風間さんは更に驚いた表情をしたけど、柔らかく笑んでくれた。
「はい」