私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
* * *
山の麓に着いたのは出発してから五時間後。
途中休憩などもあったので、腰が痛くならずにすんだ。
時刻は午後四時。獅子の刻。
今から露営の準備をするらしい。
山の麓は、通ってきた道と違って、草むらが広がっていた。と言っても、長さのある草は観られない。せいぜい三ミリ程度のものだ。
左右、前方ともに森もなく、見通しが良い。だけど、背後には山が迫っていた。二十メートルくらい歩けばもう山の入り口だ。
山の下の方や中腹には森が広がっているけれど、上の方は岩が多く、殆ど緑は見られない。
夕方の山というのは、なんだか不気味。これが夜で真っ暗なら、もっと不気味だろうな。
「出来たようですよ」
「え?」
風間さんに声をかけられて振り返ると、そこにはもう露営地が出来上がっていた。白いテントが八つあり、火打竜で火をつけたであろう焚き火が煌々と燃えていた。
「わ、私手伝ってない!」
焦りながら風間さんを仰ぎ見る。
風間さんは驚いたように目を丸くして、おかしそうに笑った。
「大丈夫ですよ。露営の準備は足運屋の方々がやってくれるんです」
「……そうなんですか?」
「ええ」
良かった。そうなんだ。悪いことしちゃったなって、焦ったじゃんか。
「ふふっ」
風間さんがまだ笑っている。
(そんなにおかしいかな……?)
ちょっと、恥ずかしいじゃん。