私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~


 * * *


 午前十二時十分。
 風間は、ゆりがテントに戻った気配を感じた。

 数十分前に、四足竜の裏側辺りから、男のしわがれた声が耳遠く聴こえた。
 あれは、絶命する際の僅かなの叫び声だと、風間は知っていた。
 何度も耳にしたことがあったからだ。

 だが、殺した者の気配は遠ざかった。
 ゆりがテントを出たとき、止めるか迷ったが、ようすを見ることにした。――おそらく今は危険はない。

 風間は、ゆっくりと起き上がり、自分の手荷物を漁った。
 二つの入国証を取り出して、無造作に放る。
 そして、小さなナイフをポケットに入れて横になった。

 耳を澄まして、時が来るのを待つ。
 想定外だが、想定内だった。

 風間が幾つかシュミレーションした内の、一つの方法を採ることになるだけのこと。だが、できればこの方法でないものの方が良かった、と風間は残念に思った。
 幾つかの命が消えるだろうから――。

「ふっ」
 
 風間は浮かんだ考えに自嘲した。
 いつからそんな風に考えるようになったのか……。
 浮かんだ少女の姿に思わず微笑んだ。

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