私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
* * *
「――ん」
遠くの方で、がやがやと騒ぐ音がする。
獣の鳴き声、下品な笑い声。女の人の叫び声。
(……叫び声?)
「ん!」
ぼんやりとする意識の中で、誰かに口をふさがれた。
(なに、なんなの!?)
パニックになりながら勢いよく眼を開くと、その私の背後で、「シッ!」と、制止する声が囁いた。
首を少しひねって顔を確認する。――風間さんだ。私のようすを確認して、風間さんは手を離した。
どういうことですか? と、訊ねようとして、月明かりとは別の光が目にちらついた。
私は寝ぼけた頭を振って、地面にちらつく灯りを振り返った。
テントが、燃えている。
「………」
呆然とした。
八つあるうちのいくつかが、煌々とした火を放っている。テントの位置は何故か二十メートルくらい離れていた。
(私、あそこに、居たはずなのに)
そこで、やっと私達は山の入り口にある森の中にいるんだと気づいた。
燃えるテントに照らされて、数人の男女が円陣を組んで座らされている。私達と一緒に乗車していた人達だ。
円陣を囲むように、動物の皮かドラゴンの皮を纏った獰猛そうな男達が剣を突きつけて立っていた。その周囲には、ラングルやダチョウのような姿のドラゴンがいる。爬虫類の顔がついていて、羽根は極端に短く、ダチョウドラゴンは跳べそうにない。背には鞍が括りつけられていた。
ラングルは二頭。
ダチョウドラゴンは、全部で十一頭いた。
「これって……」
「山賊です」
「山……」
自分でも顔が青ざめたのが分かる。
「わ、私達どうやって?」
「気配が感じられたので、テントの裏をナイフで切ってゆり様を連れて出ました」
「え、じゃあ……し、知らせることはできなかったんですか? みんなに」
「申し訳ありません」
言い方が妙にそっけない。
まるで、そんなことをする必要があるのか――とでも言いたげだ。
私は露営地を振り返った。
「ん?」
燃え盛るテントから少し離れたところに止まっている四足竜の足元に、何かがある。放り出された布団の束みたいなもの。
(なんだろう?)
目を凝らすと同時に、風向きが変わった。テントの火が揺らいで、それを照らし出す。ぎくりと心臓が高鳴った。
人間だ。
地面に転がっていたのは、人間だった。
あの、用心棒。剣で切られたのか、血らしきものが地面に溢れ出ていた。
さあ、と血の気が引く。
殺された……。
(じゃあ、みんなも?)
「殺されちゃうじゃないですか。助けましょう!」
小声で訴えた私に、風間さんは困ったような表情を向けた。
(助けないの?)
私は焦りながら、露営地を見据える。
みんなは露営地の中心に座らされていて、それを取り囲む山賊が五人。
燃えているテントは、四つ。残っている四つのテントの中から、男が現れた。手には袋を下げている。