私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
テントから出てきた男は全部で八人。いずれも体格が良く、武器を持っている。これで、山賊は十三人だ。
十三人……屈強な男を相手に戦う……。
ちらりと風間さんを窺う。
風間さんを危険さらすわけにはいかない……かといって、見捨てるわけにも……。
「……あれ?」
屈強で、獰猛そうな山賊の中に、ひょろっとした男が一人、混じっている。――あれって、チャラ男じゃね?
チャラ男はへらへらと笑いながら、脅えている人達を剣の側面でぺちぺちと叩いていた。
「あいっつ、信じられない! なんのつもり!?」
「おそらく、最初からグルでしょう」
「え?」
「彼は、山賊の仲間です。五時間わざと遅れてきて、夜営するように仕向けたんでしょう。この山の前で襲えるように」
「……!」
(最低! なにそれ。ありえない!)
チャラ男が何かを山賊に告げた。
表情はよく読み取れない。ただ、怪訝なようすだったのはなんとなく見て取れた。すると突如、山賊達の下品な笑い声が響く。
チャラ男含む四人の男を残して、九人がダチョウドラゴンに騎乗する。
九頭のダチョウドラゴンは、山の入り口、つまり私達目掛けて突っ走ってきた。――速い!
「逃げましょう!」
焦りながら風間さんを振り返ると、風間さんは冷静な表情をしていた。
「あれは、喰鳥竜(ジキチョウ)と言って、鼻と、夜目が利きます。人間が走ってもすぐに追いつかれてしまいますから、逃げても無駄です」
(じゃ、どうしろって言うんですかっ!?)
愕然とする私に、風間さんはにこやかに笑いかけた。
「捕まりましょうか?」
――え。
「ええ!?」
思わず叫んだと同時に、ザザッと音がし、私達は喰鳥竜とやらに乗った山賊に囲まれた。頬が引きつる私に、風間さんは微笑を投げかけた。
「抵抗しないで下さいね。ゆり様。殺されますから」
「兄ちゃん、良く解ってるじゃねぇか!」
恐持ての山賊が、にやりと笑った。