私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *

 生きた心地がしない。
 
 山賊に剣を突きつけられて歩く約二十メートルは、まさしく地獄のように恐ろしかった。露営地の中心まで来たところで、チャラ男が小走りで寄ってきた。

(チャラ男! この最低ヤロー!)

 憎々しげに睨みつけると、チャラ男は私を見て下品な笑みを浮かべた。舌なめずりをする。突然、乱暴に腕を捕られた。

「お嬢ちゃんはこっちだ!」
「キャア!」

 痛いじゃない!

「離してよ!」

 キッと睨みつけると、チャラ男は、「わ~お!」と茶化すような声を出した。

「気が強いんだね~!」

(バカにして!)

 反対の手でやつの肩を殴りつけようとして、その手を捕られた。チャラ男がにやりと口の端を上げる。

「キャアア!」

 背後から悲鳴が聞こえて振り返ると、女の人が山賊の一人に乱暴に立たされていた。あの、カップルの女性だ。
 彼氏は、必死で手を伸ばした。
 でもその瞬間、山賊に蹴り飛ばされて彼は地面に強く背を打ち付けた。

(ひどい)

「おい、ティサン! ちゃんと入国証は集めただろうな?」

 チャラ男が振向いた。
 こいつに隠れて見えなかった男の姿が、肩越しに窺えた。男と目が合う。男は冷笑を浮かべながら、私から目線を外した。
 チャラ男を強い目で見る。

「集めましたとも! 他の手荷物も、ほら!」

 このチャラ男がティサンか。
 ティサンは誇らしげに胸を張って、私に向き直った。
 薄っすらと笑みを浮かべている。

「入国証ってさぁ、どこの国でもすごく高く売れるんだよ。キミ達永国人には縁のない話だろうけどね。中でも、今はキミ達永国人の入国証が一番高く売れるから、マジど~もで~す! って感じ!」

 ウザッ!

「じゃあさっさとそれだけ盗ってどっか行けばいいでしょ!」

 私が叫ぶと、山賊達はきょとんとした顔をした。互いの顔を見合ったと思ったら、突然大爆笑した。

(なんなの?)

 あっけにとられる私に、ティサンが薄笑いを浮かべながら言った。

「永国人は本当に平和ボケなんだねぇ。入国証って、大きな町に入るときに確認されるんだよ」
「そんなの、知ってるわよ」

 だからなんだって言うのよ。
 ティサンは鼻で笑って、ぎらりと瞳を光らせた。
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