私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

「だから、盗んだだけだと盗難届けを出されて、門で発覚して捕まっちまうんだよ。そうすると誰も買わないの。だから暗黙のルールとして、入国証の購入時には、入国証の元の持ち主は死んでいることが条件なんで~す! それを利用して、死んだ家族の入国証を売るやつもいるくらいなんだよ」

 は?

「永国人には無縁かも知れないけど、世界ではわりと常識なんだよ? 下流家庭でも普通に行われてることなの。もちろん、違法だけど」

 山賊達の嘲笑が辺りを包んだ。
 まさか。そんなことが、行われてるなんて。……じゃあ、もしかして、私達、やっぱり殺され――。

「キャアア! やめて!」

 悲鳴が耳を突いて、私は我に帰った。
 体を後退させて悲鳴の方向を確認する。

 思わず息を呑んだ。
 さっき立たされていた女の人が、山賊二人に押し倒されていた。

「やめろぉ! ――うぐっ!」

 彼氏が叫んで、見張りの山賊に蹴り倒された。
 さっきティサンに話しかけていた山賊だ。
 その山賊は首だけで振り返って、女の人に馬乗りになっている男に、気だるそうに声をかけた。

「頭ぁ。もうめんどーだから、殺しちゃいましょうよぉ」

 ちらりと彼氏を見る。

「ダメっすよ!」

 制止したのは、ティサンだった。

「彼氏とか旦那とかの前でやるから興奮するんじゃないっすか!」
「違いねぇ!」

 頭と呼ばれた一番厳つい男は、女の人に馬乗りになりながら豪快に笑った。
 言葉が出ない。
 怒りで頭が真っ白だ。
 なんて、なんて……最低なやつら!

「お前もそうなるんだよ。お嬢さん!」

 冷たい声音が下りてきて、ぞっとした。
 思わず喉が鳴る。
――い、いや、嫌だ!

「たしか? 〝人の女をジロジロと見るおつもりなのでしたら、殺しますよ?〟だっけか?」

 ティサンは冷笑を浮かべた。

「今度はてめぇが見る番だなぁ! 自分の嫁がヤられるとこでもガン見しとけ! この状況で殺せるもんなら殺してみろ! バーカ!」

 ティサンは吠えながら、掴んでいる私の腕を乱暴に引っ張った。

「キャア!」

 体勢が崩れて、地面に伏せる。
 ティサンのギラついた酷薄な眼が、私を見下ろしていた。

(イヤ! 助けて!)

「ええ。殺しますよ」

 突如、この場に似つかわしくない、落ち着いた声音が、いやにはっきりと辺りに響いた。 仰向けになった体をよじると、みんなの注目を一身に受けたその人の姿が映る。
風間さんだ。
 彼は笑みを湛えながら、胸の内ポケットに手を突っ込んだ。
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