私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
「あれ。……もう一枚しかありませんか」
普段となんら変わりないようすで、ポケットから一枚の紙切れを取り出す。
あれは、呪符だ。
「ふむ……。手荷物から補充しておけば良かったですね。このポケットだと、あまり入らなくて」
風間さんはにこやかに山賊に微笑みかけた。
(なに、え、どういうこと?)
頭が追いつかない。
山賊達も状況を掴めないようで、ぽかんとした顔で動きを止めていた。
それ程、風間さんの言動はこの場において異質だった。
「――まあ、別になくても平気ですけどね」
呟いて、風間さんは呪符をポケットに突っ込む。(えっ、使わないの!?)
それと同時に、山賊達は正気を取り戻した。
「なんだテメェ!」
「殺すぞ!」
「おう、コラ! なめてんのか!」
口々に悪態をつき、暴言を吐く。
山賊達は目を血走らせて、風間さんに剣を向けた。
「あ、危ない! わ、私なら大丈夫ですから!」
思わず叫んだ私に、風間さんは微笑みかけた。
まるで〝大丈夫〟と言われたみたい……。
「なめてんじゃねーぞ! 優男! うちの頭はなぁ、能力者なんだぜ!」
ティサンが勇んで叫ぶ。
「ふっ!」
自慢するように鼻で笑って、山賊の頭が女の人から離れた。だけど、女の人は依然として他の二名の山賊に押さえつけられたままで、不安と緊張の色を隠せてなかった。涙で歪んだ頬に、汗が落ちる。
「俺の能力は、凄いぜ?」
頭は自慢げに言って、ふん! と腕に力を込めた。
その両腕からまとわりつくように、炎が上がる。
「……は?」
愕然として、変な声が漏れた。
人体から、炎が出るなんて……いや、でも、能力者がいるっていうのは知ってるけど……。
「ありきたりですね」
期待外れ、というような風間さんの声音。表情はあきらかに相手を侮蔑している。こんな風間さん、見たことない。
(本当に、風間さん? でも、かっこいい!)
山賊の頭の歯軋りが聞こえた。
「テメエ!」
怒号が飛んだ瞬間、突如、地響きのような音が短く轟き、私は力をなくした。地面に頬を押し付ける。
(なに? どういうこと? 何が起こってるの?)
体が動かない。脱力して、動かせない――いや、違う。力をなくしたわけじゃない。押さえつけられてるんだ――物凄い力で。
上からの圧迫で、肺が苦しい。
でも、それは私だけじゃなかった。視界に入る全員が、同じように地面に伏している。風間さん以外は。